覚え書:「政治断簡 スットコドッコイと愛の行方 政治部次長・高橋純子」、『朝日新聞』2017年04月24日(月)付。

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政治断簡 スットコドッコイと愛の行方 政治部次長・高橋純
2017年4月24日

 「夜学生が紙袋のお菓子を、食べてみるか、とすすめてくれたので、土間に立ったまま食べたのだ。カステラの間に羊かんをはさんで三角に切った形のお菓子だった。この菓子の名前知ってるか、と訊くから、知らない、と答えると、シベリヤ、と言った」(武田百合子「ことばの食卓」)

 小学1年の道徳の教科書で「パン屋」が「和菓子屋」に替えられたとの報に触れた時、ふと「私はシベリアの側に立つ」と思った。和菓子かも洋菓子かも菓子パンかもしれない美味なる食べ物。この世界に開かれた節操のなさをこそ、私は愛(いと)おしいと思う。

 伝統も文化も国も郷土も、重層的で多面的だ。愛すべき部分も憎まざるを得ない部分もある。いいからとにかく尊重しろ、愛せと言うのは、バカになれと言っているに等しい。右傾化というよりスットコドッコイ化。愛さえあれば生きていけるってか。

 もとより愛することは難しい。愛し過ぎて常軌を逸してしまうことも、多々ある。

 自民党有村治子元女性活躍相は今月13日の参院内閣委員会で、自衛隊機のスクランブルが昨年度過去最多、中国の脅威が高まっているとのニュース解説にNHKが使った、中国の国旗の下に日の丸を配した画をやり玉に挙げた。「この映像はまさに主権が奪われた状況の属国、隷属したポジションに日の丸を置いている」「中国の方から見れば、中華思想、チャイナファーストを日本の報道が自らやってくれていると見えるのではないか」……大丈夫か。

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 作家の百田尚樹氏は「もし北朝鮮のミサイルで私の家族が死に、私が生き残れば、私はテロ組織を作って、日本国内の敵を潰していく」「昔、朝日新聞は、『北朝鮮からミサイルが日本に落ちても、一発だけなら誤射かもしれない』と書いた。信じられないかもしれないが、これは本当だ。今回、もし日本に北朝鮮のミサイルが落ちた時、『誤射かもしれない』と書いたら、社長を半殺しにしてやるつもりだ」とツイッターに投稿した。

 あらタイヘン。そんな記事本当に書いたのかしら。「北朝鮮」「一発だけ」「誤射」でデータベース検索したが、結果は0件。永遠のゼロ件。

 百田氏の過去のインタビューなどから類推すると、おそらく2002年4月20日付朝刊「『武力攻撃事態』って何」のことだと思われる。

 Q ミサイルが飛んできたら。

 A 武力攻撃事態ということになるだろうけど、1発だけなら、誤射かもしれない。

 北朝鮮を含め具体的な国や地域名は出てこない。一般論として、武力攻撃事態の線引きは難しいということをQ&Aで解説する記事だった。

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 夜店で戦隊ヒーローのお面を買ってもらった幼児が、見えない敵と闘っている姿はよく見かけるが、「愛国メガネ」にも似た効果があるらしい。四方八方敵だらけ。息つく暇もなかろう。とりあえず山へ“キノコ採り”にでも出かけてみてはいかがか。北朝鮮の脅威を喧伝(けんでん)しつつ、桜を見て一句詠む、ヨユーの安倍晋三首相にならって。
    −−「政治断簡 スットコドッコイと愛の行方 政治部次長・高橋純子」、『朝日新聞』2017年04月24日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12906915.html


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