覚え書:「政治断簡 9条の「政局化」首相のリスク 編集委員・国分高史」、『朝日新聞』2017年05月22日(月)付。

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政治断簡 9条の「政局化」首相のリスク 編集委員・国分高史
2017年5月22日 
 安倍晋三首相は、憲法改正論議を「政局化」した。

 これが5月3日に首相が出した「9条改正」メッセージの本質である。

 政局化とはどういうことか。自民、公明、日本維新の会の3党で憲法改正案の国会発議に持ち込み、あわせて党内に改憲積極派と慎重派がいる民進党の分断を図ろうというものだ。民進幹部は「野党共闘つぶしの意図は明らかだ」と身構える。
 憲法論議は政局にはからめず、与野党が合意できる改憲案を練り上げる。これが衆院憲法調査会の主な議員の共通認識だった。政局化が極まれば、3党は改憲案の強行採決すらしかねない。


 そのために首相が投げてきたのが、9条1項、2項は残しつつ、自衛隊の存在を新たに書き加えるという曲球だ。自民幹部は「低めいっぱいの絶妙な変化球だ」と表現する。
 自民党結党以来の改憲論の核心は、戦力の不保持と交戦権の否認を定めた憲法9条2項の変更または削除だ。2005年と12年に党がまとめた二つの改憲草案はいずれもそれを踏まえている。
 2項削除を「ど真ん中の直球」とするならば、首相が投げた球は「ねじ曲がってはいるが、ぎりぎりストライク」というわけだ。
 ただ、党内には首相の案に「今までの議論にはなかった」(石破茂・元防衛相)からの批判のほか、「いまさら自衛隊を書くこと意味があるとは思えない」との声もある。
 「9条」はどのようにせよ日本人の琴線に触れるだけに、評価は一様ではない。


 自衛隊は献身的な災害救助活動などを通じ、高い評価を受けている。それだけに、その存在を明記することに限れば、多くの国民は受け入れるだろうと首相は踏んだのだろう。首相に近い改憲派は「共産党以外はだれも反対できないはずだ」という。
 だが、そんな単純な話ですむはずはない。
 昨年施行された安保法制で、自衛隊集団的自衛権の限定行使が認められた。新たな条文の追加で2項が空文化し、自衛権行使の範囲がさらに拡大するおそれはないか。「1項2項は残す」という首相の言葉の裏側に、最新の注意をめぐらす必要がある。
 首相の意思表明を受け、9条改正に向けた党内の歯車は回り始めたが、党改憲本部のベテランは「首相は大きなリスクを背負った」と語る。
 「どんな形であれ9条に手をつけるとなれば、安保法案の時を上回る反対運動が起きる。国民投票で否決されたら、首相退陣だけではすまされない。自衛隊が否定されることになるのだから」
 朝日新聞世論調査では、首相が唱える9条改正が必要か必要でないかは41%対44%で拮抗している。
 国会内の議席だけをみれば自公維3党は圧倒的な多数派だ。だが、国会の外に目を転じれば、首相の9条改正論に懐疑的な人たちは決して少数派とは侮れない。
    −−「政治断簡 9条の「政局化」首相のリスク 編集委員・国分高史」、『朝日新聞』2017年05月22日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12949504.html





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