覚え書:「神道と政治:上 現場編 神社界、実は多様な意見」、『朝日新聞』2017年05月29日(月)付。

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神道と政治:上 現場編 神社界、実は多様な意見
2017年5月29日


神政連が昨年秋に作ったリーフレット。「協力:神社本庁」とある。憲法に緊急事態条項を設けることなどを唱えている
写真・図版
 このところ、神社界の政治的な動きが盛んに見える。一部では憲法改正に向けた署名集めに協力するなど、改憲運動の「最前列」にいるかのようだ。ただ各地を歩くと、必ずしも一枚岩ではない神社神道=キーワード=の姿が浮かんでくる。その多様なあり方を見てみたい。

 ■現政権では改憲ダメ

 「共謀罪は怖いです。絶対に認めてはいけません。安倍政権は基本的人権をどんどんつぶそうとしている」。愛知県清須市にある日吉神社三輪隆宮司(69)はそう語る。

 神社本庁と協力関係にある神道政治連盟(神政連)の愛知県本部の役員だ。しかし「誇りの持てる新憲法の制定」を目指す神政連とは意見が異なる。

 日本は軍隊を持ってもいいと考えている。ただし文民統制が完全に守られ、国家権力を縛る立憲主義が保障されることが前提だ。「いまはルールをばかにする『反知性』の政治。政治が国民をだます教育勅語の時代に戻そうとしています。そんな政権下での憲法改正を認めるわけにはいきません」

 自身のブログでは「神社界で自分たちが主張している憲法改正の方向が、日本をどこへ引っ張っていくのかわかっている人がどれほどいるのであろうか?」といった批判もしている。しかしどこからも文句は来ない。「神社界はわりと寛容なんです。陰ながら私の考えに賛同してくれる神職はたくさんいますよ」

 改憲運動を展開する日本会議のホームページ。役員欄には神社本庁や神政連のトップらの名が並ぶ。神社界が一丸となって改憲に取り組んでいるような印象を持たれがちだ。

 しかし神社界は広い。東京都八王子市にある浅川金刀比羅(ことひら)神社の奥田靖二宮司(74)は昨年4月、国会近くでの集会で、施行されたばかりの安保法の廃止を求める祝詞(のりと)をあげた。「掛けまくも畏(かしこ)き大神等(おおかみたち)、この戦争法を許し給(たま)わず……」

 宗教界のほとんどは、先の大戦で戦争遂行に協力した。戦後の1947年、神社本庁も加わって「全日本宗教平和会議」が開かれた。懺悔(ざんげ)文には「身命を賭しても平和護持の運動を起こし、宗教の本領発揮に努むべきであった」とある。あの誓いを忘れたのか、と奥田宮司は怒る。

 祈りと政治――。いわば聖と俗の関係について、こう語る。「祈るだけで平和は訪れません。『宗教の中立性』を口実にするなんてあり得ない。宗教者は無条件で、戦争反対の立場であるべきです」

 ■「天皇、象徴のままでいい」

 神社界には、憲法天皇を「元首」と定めるよう求める動きがある。しかし、埼玉県秩父市秩父神社の薗田稔宮司(81)は「象徴」でいいと考えている。

 そのうえで「天皇が、国民の幸せを祈って執り行う神事が重要。それこそが天皇を国民統合の象徴とする根拠です」と話す。いまは私的行為とされるが、国民のための「公共性」があることを認めてほしいという。「宮中祭祀(さいし)の公共性を憲法に加えるのが難しければ、皇室典範でもいい」

 薗田宮司は、憲法9条1項(戦争放棄)は残したほうがいいと語る。

 神道は共同体をつなぐ「祭りの宗教」であり、稲作に象徴される「イネの宗教」でもあると説明する。「農耕的な社会は平和がなくては成り立たない。平和あってこそのエコロジー。それを前提にした宗教なのです」。万物のいのちを大事にすることが基本的なモチーフだ。そこから「何としても戦争は避けるべきだ」という信念がある。

 ただ、いわば「民族存立の自然権としての自衛のため」という限定的な意味での戦力は容認する。9条2項の「戦力の不保持」は実態にそぐわないと考え、自衛隊の位置づけがないことも不満だ。「もっと誇りある組織として位置づけてあげたい」とは思っている。

 (磯村健太郎

 ◆キーワード

 <神社神道> 神社を中心とした神道で、信仰の対象は日本固有の神や神霊など。現在、宗教法人の神社は約8万あり、神社本庁がほとんどを包括。神職は約2万人で、複数の神社の宮司を兼ねる例も多い。なお、神道には幕末以降に展開した「教派神道」や日常のなかで習俗として営まれる「民俗神道」などもある。
    −−「神道と政治:上 現場編 神社界、実は多様な意見」、『朝日新聞』2017年05月29日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12961154.html


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