覚え書:「セレンゲティ・ルール―生命はいかに調節されるか [著]ショーン・B・キャロル [評者]山室恭子(東工大教授)」、『朝日新聞』2017年08月13日(日)付。
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セレンゲティ・ルール―生命はいかに調節されるか [著]ショーン・B・キャロル
[評者]山室恭子(東工大教授)
[掲載]2017年08月13日
[ジャンル]科学・生物
■あの秘密知らないと絶滅するぞ
どうぶつ村は大さわぎ。
「ついにニンゲンが⊥の秘密に気づき始めたぞ」
「なんと、あの⊥か」
「そうだ。神秘の⊥、生態系のバランスをつかさどる〈調節〉の理(ことわり)だ」
「お、フジツボっ娘から着信だ。もう50年も昔、アメリカのとある西海岸で動物学者がくぎ抜きでヒトデを岩からひっぺがし、片っ端から海に放り込んでたんだってさ。ご酔狂に何をやっとるんじゃいとじいさまたちはあきれたが、この本を読んで分かった。食物網の実験だったのね、って。
ヒトデを除去すると、ヒトデの食物のフジツボやイガイが急増して、フジツボたちの食物の藻が食い尽くされる。あれこれ連鎖が起きて入り江の生物は15種から8種へ急減してしまう。この『蹴っ飛ばして観察する』方法で、入り江の『キーストーン種』はヒトデだと判明したってわけさ。ヒトデ⊥フジツボ等(など)、つまりヒトデがフジツボやイガイを〈調節〉してたのが生態系のかなめ石(キーストーン)だったんだな」
「うぜぇ、バスのオヤジが威張りだしたぜ。湖Aのバスを湖Bに移したら湖Bの藻の繁茂が止まった、バス⊥小魚⊥動物プランクトン⊥藻、わしがキーストーン種だわいって」
「ねえ、どうして『セレンゲティ・ルール』っていうの?」
「お前、まだ読んどらんのか。情報に遅れると絶滅するぞ。タンザニアのセレンゲティ国立公園でライオンやゾウやヌーの個体数を長期に観測した結果、捕食者による精妙な調節機能をニンゲンたちが発見したからだよ」
「同じような調節の原理が、生命体の分子レベルでも働いてるって話も載ってたわ。ミクロとマクロの両面からニンゲンの探索が進んでる。きゃー」
「なあ、わしらも蹴っ飛ばして観察してみるか、ニンゲンをさ」
「だな。除去作業はウイルス坊主たちに頼もうぜ」
「もっと賑(にぎ)やかで活気のある生態系になるかもな」
◇
Sean B.Carroll 60年米国生まれ。ウィスコンシン大マディソン校教授。進化発生生物学が専門。
−−「セレンゲティ・ルール―生命はいかに調節されるか [著]ショーン・B・キャロル [評者]山室恭子(東工大教授)」、『朝日新聞』2017年08月13日(日)付。
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