覚え書:「声 「アカ」歌詠む父も連行された」、『朝日新聞』2017年05月31日(水)付。

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声 「アカ」歌詠む父も連行された
 会社員 (宮崎県 64)
2017年5月31日

 新聞で「共謀罪」法案の記事を読み、父の戦前の体験談を思い出した。父は1906年、四国の高峰、剣山のふもとの徳島県木屋平村(現美馬市)で生まれた。若い頃に母親を亡くし、山の奥で木こりをして、父親と二人で暮らしていた。文芸好きで、山仕事の合間に短歌を詠み、新聞の歌壇や同人誌に投稿していたそうだ。
 ある日、数人の警察官が突然、自宅におしかけた。父は車に乗せられ警察署に連行された。共産党員と疑われたのである。蔵書の石川啄木斎藤茂吉らの歌集が赤色で装丁されていて、それを見た近隣の誰かの話が伝わったらしい。
 取り調べの警察官は、押収した本を示して「お前はアカだろう」と追及。父が「これは歌集。共産党とは無関係だ」と説明しても、尋問が続き、調書に署名押印してやっと釈放されたという。
 父が詠んだ歌が残っている。
父一人いますさみしさ青麦のあかるき里を走る護送車は
取調書に書名拇印を終わりたり窓近き木に朝が晴れてをり
人を恨まずおのれを愧じずこんこんと湧く真清水と生きてゆくべし
 父が生きていたら、今の時勢をどのように思うのだろうか。
    −−「声 「アカ」歌詠む父も連行された」、『朝日新聞』2017年05月31日(水)付。

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