日記:人間の根本的な変革と社会改造の筋道をきちんと付けない限り、自己撞着は必然となる。


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A いやに慎重な言い方をするね。もったいぶってはいけないよ。
 言論・表現の自由など、きまりきった話ではないか。僕たちは、そんなに君が心配するような、言論抑圧の団体ではない。なるほど、ファッショだ、アカだと、世間の一部に悪評があることは、僕も知っている。自民党からはアカだと言われ、共産党からはファッショだと言われたりする。こんなのは、みな僕たちを誤解しているのだ。
 自分ひとりの幸福、家族の幸せなどにとどまらず、ひいては民衆全体の幸福を望んで、懸命に努力している僕たちを、何をもってファッショよばわりするのか。何でアカとののしるのだ。
B まあ、そう恐いカオをするな。
 なるほど、君の言う通り、窮極に民衆の平和と幸福を目的として捉えて、そのために果敢な宗教活動を展開する限りでは、ファッショだとか、アカとかの、政治的な象徴語は無用とも言えるのだ。
 だが、君たちが、現実に政治の場へ足を踏み入れた以上、君たちが好むと好まざるにかかわらず、一定の政治的ワクに律せられその範囲内で論じられるのは自然ではないか。
A 分かっちゃいないなあ、君も。
 僕らが問題にしてるのは、畢竟、人間革命なのだ。人間の根本的変革なしに、何が社会主義だ。何の自由がある、解放が望めよう。
 湧き出るような、自由で、さわやかな、この生命力の充実。−−入信しない、君などには、とても判るはずがない。判ってたまるものか。この生命力は、正しい仏法に立ってればこそ、自ら湧出するのだ。
 山肌の、秘密の湧き水を、桶にいっぱい汲みながら、冴えたような鋭い、だけど深い水の味を、あじわうときの何とも言えぬ気持ち。あれなんだよ。すくなくとも僕の幸福感なのだ。
B 悟り、と言うのか。
A いや、悟りというのは、天魔・禅宗の用語だ。
B 君はまだ、僕の質問に答えていないのだ。
 つまり、現実の、民衆の貧困や病気や社会悪が、祈ることとか、人間革命によって解決できるのなら、なぜ、政治に進出する必要があるのだ。全部に祈りを薦めれば足りよう。
 さっき、君が言ったように、もし、唯一絶対の日蓮大聖人をおがむことによって、一人一人が幸福となり、この一人一人が、また他人を入信させ幸福になるようにしむけると言うのなら、つまり、個の信念と祈りをもって全体に及ぼすことが可能なら、何を好んで政治に手を出す要がある。折伏大行進をつづけ、入信者の教義学習や組織の整備に専念すべきではないのか。
A それは広宣流布王仏冥合の実現のためなんだ。
B というと?
A 広宣流布とは正しい仏法をあらゆる人に信心させることだ。また王仏冥合というのは、その信心を根底に置いて、文化的かつ人間的な生活のできる社会、−−もっとも民主的な社会といっていい、−−を創ることだ。そのために、はじめに言ったように、乱れきった社会、腐敗した政治を浄化する必要があるのだ。
B 君の意向は判るが、意見は自己矛盾してきたようだね。もし、君がさきに言ったように個の自覚というか、仏法に帰心した個というものの、無限に近い連鎖でもって絶対的幸福の社会が創れるのなら、全人類が成仏できるのなら、政治も、極端に言えば宗教そのものも不必要となるわけだ。
    −−柳田邦男「真実の対話を求めて」、柳田邦男、森秀人、しまね・きよし、鶴見俊輔編『折伏 創価学会の思想と行動』産報ノンフィクション、1963年、35−38頁。

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