覚え書:「速水健朗の出版時評 ネット発のヒット作 面白さに気づくのは書店員」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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速水健朗の出版時評 ネット発のヒット作 面白さに気づくのは書店員

速水健朗の出版時評
ネット発のヒット作 面白さに気づくのは書店員
2017年09月03日

右下『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)▽左下『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)

 インフルエンサー。SNSで影響力を持つ素人がヒット商品を生む時代。本屋に並ぶベストセラーにもネット発のコンテンツが急増中。
 『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』は、ネットで話題が拡散した村上春樹の文体パロディーから生まれた本。11万部のヒット中。「ネットでウケたネタを出版社に持ち込んでも、企画会議は通らなかった」とは著者の一人、神田桂一さん。半年間、複数の出版社に持ち込んだ末に書籍化にこぎつけた。企画の中身も幾度もブラッシュアップを余儀なくされた。
 最初におもしろさに気付いてくれたのは、ネットではなく全国の書店員たちだった。売れ行きも地方コンビニでの伸びが大きく、非ネット圏の手応えが強いという。
 小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』は新人のデビュー作としては異例のヒット。著者の「燃え殻」さんは、人気ツイッターユーザーだ。出版社からはつぶやきの書籍化のオファーはいくつも寄せられていたが、安易に真に受けてはいけないと思った。友人でもある作家の樋口毅宏さんからの勧めもあり、小説の執筆に挑む。
 ネット連載を経て無事書籍化。とはいえ文芸の世界では無名の作家でしかなかった。
 当初書店では“ネット・エッセー”の棚に並べられた。不本意な滑り出し。出版社は苦心して「140文字の文学者」の説明を加える。本人としては顔から火が出る思いがした。だがネット出身であることを秘して「作家」を名乗ることにも抵抗がある。本業はテレビの美術制作。あえて言えば「会社員」だが、その肩書で小説を売ろうというのも理解を集められない。ホームグラウンドであるはずのネットでも賛否が分かれていた。
 「所在がないなって。鬼っ子です。いまだに作家と名乗っていいのかわかりません」
 ネットより先に書店の店頭が反応した。「新宿の書店の文芸棚の方が読んで、推してくれたんです」
 ネットの人気者がバズって即何万部なんてうまい話はないようだ。
    −−「速水健朗の出版時評 ネット発のヒット作 面白さに気づくのは書店員」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2017090700001.html


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もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら
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