覚え書:「文庫この新刊! 東直子が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年09月10日(日)付。

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文庫この新刊! 東直子が薦める文庫この新刊!

文庫この新刊!
東直子が薦める文庫この新刊!
2017年09月10日
 (1)『水声』 川上弘美著 文春文庫 648円
 (2)『さぎ師たちの空』 那須正幹著 ポプラ文庫 713円
 (3)『恋の法廷式』 北尾トロ著 朝日文庫 734円
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 夏の微熱が残る9月、心の奥深さを味わえる本を。
 (1)は、詩的でひんやりした文章に誘われながら、とある家族の内側の独特な一体感と孤独に浸ることができる。姉弟、母娘、女友達など、様々な関係性から生まれる一筋縄ではいかない愛の感覚が新鮮。
 (2)は、「ズッコケ三人組」シリーズ等(など)の児童書で知られる著者によるピカレスク小説。家出少年の太一は、「アンポさん」と呼ばれる謎の男と親しくなり、詐欺の片棒を担ぐことになる。と書くとハードボイルドのようだが、皆愛嬌(あいきょう)と温かみがあり、コメディータッチで痛快。六〇年安保と関わった世代の苦味(にがみ)が隠し味となっている。
 (3)は、裁判の傍聴記録である。主に、マスコミに大々的に取り上げられることはない、瑣末(さまつ)な事件について。傷害、恐喝、痴漢、殺人など内容は多岐にわたるが、共通点は「恋愛」。片思い、未練、夫婦の情愛など、法廷に浮かび上がる人間模様が興味深い。被告の心境を作者と共に推し量りつつ、その不可思議さが怖くて哀(かな)しい。
 (歌人、作家)
    −−「文庫この新刊! 東直子が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年09月10日(日)付。

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