覚え書:「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!

文庫この新刊!
福永信が薦める文庫この新刊!
2017年09月03日
 (1)『日本ボロ宿紀行 懐かしの人情宿でホッコリしよう』 上明戸聡著 鉄人文庫 734円
 (2)『半身棺桶(かんおけ)』 山田風太郎著 ちくま文庫 1080円
 (3)『芭蕉自筆 奥の細道』 上野洋三・櫻井武次郎校注 岩波文庫 1048円
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 (1)基準は「ボロい」こと。歴史的に貴重かどうかは関係なし。著者が三〇年近く通ってる「あまり紹介したくなかった」ほどのお気に入りもあれば、飛び込みで訪ねた宿も。一軒たりとも同じ対応の宿がないのが面白い。玉石混交。むしろ「石」の方に注目する。元はブログ。驚きと平凡さの絶妙なブレンド。過剰演出一切なし。心地よさの掛け流し。(2)友人の作家のいびきを聞き、ヨーロッパで音楽を聴き、山の中で不思議な男から無言の追跡を受ける。著者は本書で何度も旅をするが、最大の旅は、遠からずやってくる「死」の考察である。しかしその旅支度の様子は飄々(ひょうひょう)として煙草(たばこ)の煙のよう。従ってまだ生きている気がしてくるほど。箴言(しんげん)多数。(3)今で言えば「インスタ映え」する場所を探すような旅。そのワクワク感が伝わる。ブログとも親和性があるだろう。しかし大量の修正跡から見えてくるのは著者の「完成」への執念だ。貼紙(はりがみ)の施された箇所は透過撮影で読み取られ、本書の欄外に付される。思考の旅を辿(たど)ることができる。
 (小説家)
    −−「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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