覚え書:「PKO25年 どこへ:下 自衛官に偏る派遣、今後は?」、『朝日新聞』2017年06月09日(金)付。

Resize7395

        • -

PKO25年 どこへ:下 自衛官に偏る派遣、今後は?
2017年6月9日

カンボジアの総選挙を支援するため、選挙監視要員たちの説明会に出席した山崎裕人さん(左端)=1993年5月、カンボジア・タケオ州
写真・図版
 日本から国連平和維持活動(PKO)に派遣されたのは、延べ約1万1500人(1月時点、内閣府まとめ)。このうち約1万1300人が自衛官だ。かつては警察官や一般の公務員、民間人も派遣されていたが、減っている。担い手の議論はどこへ向かうのか。

 (土居貴輝、岡本玄)

 「派遣先では国連の一員として活動していることを常に意識するように」

 5月中旬、陸上自衛隊駒門駐屯地(静岡県御殿場市)で、国際活動教育隊の教官から約30人が学んでいた。約1カ月間、国際儀礼や宿営地のゲートでの車の検問の仕方をはじめ、現地活動の基本を教えられる。

 国土防衛や災害派遣が本来の任務の自衛隊。PKOなど海外での活動は「副業」とされてきた。2007年に防衛庁防衛省に移行するのにあわせた法改正で、海外活動も本来任務に「格上げ」された。この年、国際活動教育隊も新設された。

 今回の南スーダンからの撤収で、PKOへの部隊派遣は途絶えた。だが「次の任務をいつ命じられても対応できるよう訓練を続けていく」と陸自幹部は話す。

 1992年のカンボジア以来、自衛隊の派遣先での主な仕事は道路の補修や用地造成だった。技術力は高く評価されてきたが、南スーダンを視察したことがある防衛省幹部は打ち明けた。「道路補修も他国軍の車の通行路の整備が優先される。派遣先の国民にとって本当に必要なインフラ整備に貢献できているのか」

 かつての停戦監視などから、文民の保護など武力行使も辞さない任務が主流となったPKO。憲法9条や参加5原則を前提にすれば自衛隊の役割は限られる。

 一方で近年、取り組むのが「能力構築支援」だ。特にアフリカのPKOでは重機を操作する要員が不足し、課題となっている。

 日本は16年度に約35人の陸自隊員らをケニアに派遣して重機操作の指導などをした。今年も約20人をケニアへ派遣し、タンザニア国軍の育成を進める。南スーダンに派遣された陸自幹部も「人材育成を通じ、国づくりを支えるのも立派な国際貢献」と語る。

 ■警察官、現地警察育成に需要

 派遣が自衛官に偏る現状を、端的に表す言葉がある。「カンボジア後遺症」。93年5月、武装勢力に襲撃されて高田晴行警部補(当時33)が殉職。日本の警察官4人も重軽傷を負った。この事件がトラウマになっているという。

 98年の法改正で、PKOとは別の枠組みで「国際的な選挙監視活動」に参加できるようになった。その後、東ティモールコンゴなどの選挙の監視に、公務員や民間人ら150人あまりが派遣されてきた。

 一方、カンボジアの後、警察官が派遣されたPKOは東ティモールへのわずかな人数だけ。カンボジアでは地元警察とパトロールもしたが、東ティモールでは現地警察の研修や教科書作成などにとどまった。

 「日本の警察のPKO参加は、残念ながら消極的姿勢が際だっている」。福田康夫官房長官の私的諮問機関は02年、積極的な派遣を提言した。だが、その3年後に警察庁がまとめた要綱では、事前の教育訓練や現地での支援が十分できないなどとして、「大規模な職員の派遣を長期間行うことは、少なくとも現状では困難」と結論づけた。

 「自衛官が実績を重ねているのに、警察官は立ち止まってしまっているのは残念でならない」。カンボジアで日本の文民警察隊長を務めた山崎裕人さん(64)は、国際感覚を身につけた警察官を育てる観点からも派遣は重要だと語る。

 PKOに詳しい法政大学の藤重博美准教授(国際関係論)によると、近年の国連警察は治安の悪化などに対応する「武装警察隊」と、現地警察の教育訓練をする非武装の「個人警察官」に分かれるという。「質の高い警察をもつ日本は、個人警察官に絞って派遣する道がある。現地では『法の支配』を実現するため、裁判所や刑務所の整備とセットでの需要も大きい」と指摘する。

 立法や司法にかかわる助言や指導のほか、医療、紛争で被害を受けた自然環境の復旧――。PKO法には多様な任務が定められている。日本の特性を生かした国際貢献とは何か。要員の面からも問われている。
    −−「PKO25年 どこへ:下 自衛官に偏る派遣、今後は?」、『朝日新聞』2017年06月09日(金)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12979399.html





Resize7354

Resize7009