覚え書:「右傾化問う本、集まる関心 多様な切り口、重版相次ぐ」、『朝日新聞』2017年06月17日(土)付。

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右傾化問う本、集まる関心 多様な切り口、重版相次ぐ
2017年6月17日

写真・図版
『徹底検証 日本の右傾化』

 改憲へアクセルを踏み込む安倍政権。ネット上に飛び交う「反日」「売国」といった言葉。日本は急速に右傾化していると感じる人も多いはずだ。いったい何が起きているのか。その問いに答えようとする本が売れている。

 3月刊行の『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)=写真=は約400ページの分厚さだが、すでに5刷だ。初版は5千部で現在1万部。担当編集者は「選書としては異例のペース」と話す。
 執筆陣は研究者やジャーナリストら21人。切り口は政治、教育、家庭のあり方、ネット、宗教……と多岐にわたる。読書の感想をまとめるサイトには「本全体で統一的見解を打ち出していないのが面白い」といった声もある。
 編著者は、宗教社会学者の塚田穂高日本学術振興会特別研究員(36)。幅広い専門家の協力を得た理由をこう話す。「『右』とくくられているものをいったん分解して検証し、それを重ね合わせることが必要と感じた。問題の広がりや複雑さ、そして人権や自由といった近代的価値がないがしろにされていることを知ってほしい」
 データ分析で意外な結果が導かれた論考もある。例えば筑波大学竹中佳彦教授(政治学)による有権者の意識の検証。結論は「現時点では有権者の意識が『右傾化』していると断言できる証拠はないといわざるをえない」。有権者は中道化=脱イデオロギー化し、政策への態度も軒並み保守的な意見が増えているわけではない、と論じている。
 おととし7月に刊行された『右傾化する日本政治』(岩波新書)。これも着実に版を重ね、現在6刷3万部となっている。
 著者の中野晃一・上智大学教授(政治学)は、右傾化の特徴を三つ挙げる。?政治主導であって一般世論が先に右に傾いたのではない?右傾化の過程では限定的な揺り戻しもあり、支点が徐々に右に動いていく振り子のようなイメージ?旧来の右派がそのまま強大化したのではなく、新しい右派へと変質していった−−と分析する。
 昨年からは、改憲運動を展開する団体「日本会議」に焦点を絞った本が続々と出版されている。火付け役となった菅野完著『日本会議の研究』(扶桑社新書)は11刷、18万5千部に達している。右傾化というのは極めて複雑なテーマだ。こうした知見を積み重ねていくことによって、ようやくその本質が見えてくるのだろう。(磯村健太郎
    −−「右傾化問う本、集まる関心 多様な切り口、重版相次ぐ」、『朝日新聞』2017年06月17日(土)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12991504.html


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