覚え書:多様性のある人材を地域に引きつけるために必要なものは何か。

Resize7690

        • -

 多様性のある人材を地域に引きつけるために必要なものは何か。そのための条件としてフロリダは寛容性を重視している[※13]。米国内での都市圏を分析すると、ゲイ・レズビアンの割合が高い地区は成長率が高い。その解釈は様々ある得るが、これらの多数派とは言がたい人々に寛容な、それ故に彼らにとって住みやすい街は性的マイノリティーやアーティストに限らず多様なバックグラウンドをもつ人材、よそ者にとっても住みやすい街でもある。寛容性が多様な人材を引き寄せ、多様な人材同士が街で出会い、弱いつながりを構築することで地域のもつクリエイティビティが高められる。それが、「ゲイ・レズビアンボヘミアンの多い地域は経済成長率が高い」という結果に結びついているのではないだろうか。
 寛容性を生み出す要因の一つが適度の匿名性である。兄弟が、近所の幼なじみが、会社の部下がどのような嗜好をもっているのかが気になるという人はいるだろうが、それほど付き合いの深くない人、ましてや名前も知らない誰かの嗜好までもが気になるという人は少ないだろう。一定以上の規模の都市であれば、飲食店で知人と隣同士になる可能性は低い。そして、仕事上ちょっとしたやりとりをするだけの相手の出自や経歴などは、特別の意図をもって調べでもない限り、生涯知ることのない情報である。
 都市規模が大きくなると匿名のままでいられる時間・空間が増加する。その気になれば事実上匿名でいることができるという余裕が多様な人材にとって居心地のいい街を作る。出身地区や学校を軸とした強いつながり、それらを超えた弱いつながりの双方を維持する場として中規模都市圏の意義は大きいのだ。
 中規模都市圏が都市としての役割を果たすためには、多様性のある人口集積地になるためには何が必要だろう。これまでの議論を集約すると、
 ・クリエイティブ活動の地産地消を進めるべきだ。
 ・そのために多様な人材を地域に引きつける必要がある。
[※13]フロリダ前掲書など。→リチャード・フロリダ『新クリエイティブ資本論』(井口典夫訳、ダイヤモンド社、二〇一四年)
    −−飯田泰之「地域経済を巡る基礎理論」、飯田泰之編『これからの地域再生晶文社、2017年、55−56頁。

        • -

Resize7137


新 クリエイティブ資本論---才能が経済と都市の主役となる
リチャード・フロリダ
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 108,360