覚え書:「政治断簡 個人と世界と真夜中のギター 政治部次長・高橋純子」、『朝日新聞』2017年07月03日(月)付。
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政治断簡 個人と世界と真夜中のギター 政治部次長・高橋純子
2017年7月3日
「自分の住む世界を変えたいんだよね? 君は。それを人に頼むんだ? 人のせいなんだ?」「自分が変わらずに、世界は変わらないよ」
NHK連続テレビ小説「ひよっこ」の脚本を担う岡田惠和氏が、4年前に手がけたドラマ「泣くな、はらちゃん」。世界を変えてと“神様”に懇願する主人公に向け放たれるこのセリフを、知覚過敏の奥歯でかみ締めた。都議選最終日、首相に振られる日の丸の小旗の映像をながめながら。
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白い花柄のワンピースが、西日に映えてまぶしい。
6月2日、国会議事堂前の歩道に、彼女はすっくと立っていた。不自然なほどまっすぐに伸びた背筋に、そこはかとない緊張感が漂う。胸元に掲げられたプラカードには、「FIGHT TOGETHER WITH SHIORI」(詩織と一緒に闘う)
「性犯罪の被害を受けたのに、相手が不起訴処分になった」として検察審査会に不服を申し立てたフリージャーナリスト・詩織さん。その記者会見を見て、じっとしていられず、SNSで呼びかけられた抗議に参加したという彼女は21歳、大学3年生。
――ひとりで来たの? 勇気がいったでしょう。
「いや、友達誘う方が、逆に勇気いるんで」
――どうして来ようと?
「私、去年、電車で痴漢に遭って。本当につらくて、仲のいい男友達に相談したら、『お前でも痴漢されるんだ』みたいに言われて。これって何なんだろう?って、女性差別の勉強を始めて、自分がもっと主体的に社会を動かさないといけないって思って」
同じようなプラカードを手にした150人ほどが、ただ黙って立っている。シュプレヒコールもなにもない静けさの底に、ずっしりとした怒りがたたえられている。
でもそれは、詩織さんという固有名詞を超えて、自らの尊厳が傷つけられた時の痛みの記憶、その古傷から漏れ出す怒り、なのかもしれない。
一緒に闘う。
あなたは、ひとりじゃない。
私たちは時に「誰か」に、そう伝えたくなる。誰も聞いていないのに、真夜中のギターを弾いてみたりする。
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「個人の尊厳 国民主権」
先日、日本記者クラブで記者会見した前川喜平・前文部科学事務次官はこう揮毫(きごう)した。自分の信念、思想、良心は自分自身だけのものとして持たなければいけない、と。
個人。良心。自民党改憲草案はこれをどう扱っているか。13条「すべて国民は、個人として尊重される」の「個人」は「人」に、19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」は「思想及び良心の自由は、保障する」に変えられている。なるほどね、そういうことね――。
あったことがなかったことにされ、なかったことにはできないと良心に従い声をあげた個人が攻撃される国は美しい国ですかそうですか。
あなたは、ひとりじゃない。
私はギターをかき鳴らす。じゃがじゃがじゃがじゃがかき鳴らす。夜明けまで。世界がぱちりと目を覚ますまで。
−−「政治断簡 個人と世界と真夜中のギター 政治部次長・高橋純子」、『朝日新聞』2017年07月03日(月)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S13016389.html