覚え書:「書評:キッズファイヤー・ドットコム 海猫沢めろん 著」、『東京新聞』2017年09月24日(日)付。

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キッズファイヤー・ドットコム 海猫沢めろん 著 

2017年9月24日
 
◆社会で育てる意識を喚起
[評者]吉良智子=美術史家
 世に育児小説はごまんとあれど、これほど育児から遠くかけ離れている(と思われる)人間が中心となるストーリーはないだろう。なにしろホストが捨て子を育てるのである。歌舞伎町のカリスマホスト白鳥神威(かむい)はある日、自宅前に置かれていたベビーカーの中に「よろしくお願いします」と書かれた紙と赤子を発見する。育てる決意をした神威は、元ホストのIT会社社長と、インターネットで出資を募るクラウドファンディングで育児資金を調達することを考えつくのである。
 一分たりとも時間が自由にならない子育ての辛(つら)さや、育児あるある話(「おんぎゃあ」の合図とともに熟睡していても身体が自動的に反応する)がリアルに描かれるのは、作者が妻の体調不良によって、一人で育児のほとんどを担うワンオペ育児の地獄を見てきたからだろう。
 個性豊かな男たちに目が行きがちだが、一方で作中に登場する女たちの抱える闇は深い。ホストクラブの客としてやってくるシングルマザーや出産経験のないカリスマ美容アドバイザーは、神威たちの行為に対して最も否定的な言葉を投げつける。「子供は親が育てなきゃいけないのよ!母親が一人でがんばらないといけないの!」。それは女に課された出産育児をめぐる良妻賢母規範がそれだけ強固だという証しでもある。たとえばもしこの物語の登場人物がホストではなくホステスだったら、私たちは「毒母」「鬼母」などの言葉が頭をよぎらないといえるだろうか。
 クラウドファンディングで子育てするのが突飛(とっぴ)とは思われない。税でまかなわれる相互扶助としての社会保障は広く考えればクラウドファンディングだ。「保育園落ちた、日本死ね」とネットに書き込みがあった騒動の衝撃のとおり、現代社会は母親だけで育児をするのは限界にきている。この小説は、読み手が「子どもは社会で育てる」という意識をどれだけ持っているかをはかるリトマス試験紙になる。
講談社・1404円)
 <うみねこざわ・めろん> 1975年生まれ。作家。著書『愛についての感じ』など。
◆もう1冊 
 J・R・ハリス著『子育ての大誤解』(上)(下)(石田理恵訳・ハヤカワ文庫)。親の育て方が重要だとする「子育て神話」を覆す育児論。 
    −−「書評:キッズファイヤー・ドットコム 海猫沢めろん 著」、『東京新聞』2017年09月24日(日)付。

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