覚え書:「『共謀罪』恣意的運用に懸念 計画・準備で処罰」、『朝日新聞』2017年07月11日(火)付。

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共謀罪」恣意的運用に懸念 計画・準備で処罰
2017年7月11日 

共謀罪」何が対象に?
写真・図版
 「共謀罪」の趣旨を含んだ改正組織犯罪処罰法が11日に施行され、犯罪を実行に移した段階で処罰してきた日本の刑事司法が大きく転換される。新たにどのような行為が、罪に問われるのか。

 改正法は、277種類の犯罪(対象犯罪)については、「組織的犯罪集団」が計画し、資金を集めるなど実行のための「準備行為」をした時に、捜査当局の取り締まり対象になると定めている。

 例えば振り込め詐欺を繰り返してきたグループ(組織的犯罪集団)が、新たな詐欺事件を企て(〈1〉計画)、電話機を購入し(〈2〉準備行為)、うその電話をかけた(〈3〉実行)というケースで見ると、これまでは、〈3〉の電話をかけた段階になって犯罪が成立した。

 今後は、犯罪を計画しているグループがあるという情報があれば、捜査当局は実際に犯罪に着手する前にメンバー全員を一網打尽にできる。椎橋隆幸・中央大名誉教授は「捜査に乗り出す時期が早まり、被害が発生する前に犯罪を食い止めることができる。犯罪になる範囲が広がることで犯罪者側への心理的な抑止効果もある」と話す。

 ■適用条件、あいまいなまま

 ただ、そのためには捜査当局が「犯罪を起こしそうだ」と思うグループを監視し続ける必要がある。また、国会審議では、「組織的犯罪集団」の範囲のあいまいさが、野党側から何度も指摘された。

 野党側は、マンション建設に反対する住民グループを例に、工事を止めるために座り込みをしようとする行為が取り締まり対象になるのでは、との懸念を示した。

 過去に、住民らによる座り込みやデモ行進に威力業務妨害罪を適用された例があり、「共謀罪」の対象犯罪に「組織的威力業務妨害罪」が含まれているからだ。住民らが座り込みなどを繰り返す「組織的犯罪集団」とみなされれば、新たな座り込みの計画をした段階で「共謀罪」が適用されるおそれがあるというのが野党側の主張だ。

 政府は国会で、「組織的犯罪集団」は「テロ集団や暴力団、薬物密売組織など犯罪の実行を目的に集まった団体に限られる」と説明し、一般の会社や市民団体、労働組合などは対象外だと否定した。ただ、「正当な目的で結成されても、性質が一変すれば対象になる」との見解も示し、捜査当局の恣意(しい)的な認定への不安は払拭(ふっしょく)されていない。

 ■心の内、捜査当局が判断も

 改正法が取り締まりの条件とする「準備行為」についても、日常的な行為と犯罪準備との区別が明確ではない、との指摘がある。人の心の内はわからず、捜査当局に内心を恣意的に判断されて処罰されるのでは、との懸念もある。対象となる277の罪には著作権法違反など、凶悪犯罪とは言えないような罪も含まれる。

 刑事司法に詳しい山下幸夫弁護士は「『組織的犯罪集団』とはどういう団体か、何が『準備行為』と判断されるのか、あいまいなまま成立した。いずれも判断するのは、捜査当局だ。施行当初は暴力団に適用されることが多いと思うが、危険なのは徐々に対象が広げられていくことだ。運用状況を警戒していかなければいけない」と話す。

 (小松隆次郎)

 ■「共謀罪」法の骨子

 <処罰される行為> 組織的犯罪集団が、対象となる277の犯罪を2人以上で計画すること。ただし、集団の誰かが資金・物品の手配や場所の下見などの準備行為を実行することが必要

 <罰則> 対象犯罪のうち10年を超える懲役・禁錮の刑が定められている罪は5年以下の懲役か禁錮。その他は2年以下の懲役か禁錮
    −−「『共謀罪』恣意的運用に懸念 計画・準備で処罰」、『朝日新聞』2017年07月11日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S13029463.html


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