覚え書:「高村薫氏「異論排除の空気感、危うい」 「共謀罪」法」、『朝日新聞』2017年07月11日(火)付。

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高村薫氏「異論排除の空気感、危うい」 「共謀罪」法
2017年7月11日

共謀罪」法について語る高村薫さん=伊藤進之介撮影
 有権者一人ひとりがこの法律が成立してしまった歴史を肝に銘じるべきだ。

 なぜ、こんな法律が通るんだと開いた口がふさがらない。改正組織犯罪処罰法は日本の刑事司法の大原則を変える大きな改革にもかかわらず、内閣総理大臣も、法務大臣も与党議員も正しく法律を理解している形跡がない。それを採決強行で成立させてしまう立法府の在り方に私たち有権者はがくぜんとすべきです。

 日本は誰もまともに説明できないような法律が成立する国になってしまったということです。こういう形で成立した歴史の事実を忘れないよう、一人ひとりが肝に銘じておくべきです。

 有権者は原則を重視するべきだと思います。今回の場合なら大臣が法律について理解し、説明できているかという原則です。それができていないなら「おかしいでしょ」と思わないといけません。具体的な法律の中身について議論することは難しくても、立法過程が妥当か否かは誰でも判断できます。原則から外れていれば「ノー」と言わなければいけない。

 法律が成立して得をするのは捜査機関だけです。テロに限らず、あらゆる捜査で国民の日常生活を監視できるようになる。捜査機関による恣意的な監視が広がります。それで萎縮するのではなくて真剣に自分のこととして考えるべきです。

 それにしても異様なのは、必ずしもテロ対策のためとは言えないこの法律を、誰が何のために欲したのか、実に不透明なことです。結局、安倍政権を支える勢力の、異論を排除する社会への回帰を目指す空気感のようなものが、こんな法律を生んだのでしょう。空気感は言葉では説明できません。言葉にならないものが政治を動かし、国民が恣意的に監視されて、自由を失っていくことになる。ものすごく気持ちの悪いことです。
 言葉で説明できない空気感のようなものは本来、政治から最も遠いものです。力のある日本語が残っていれば、空気感で動いていく危うい世の中や、原則を重視することを失った社会の暴走は起きません。物書きにできることは、言葉で世界に一つひとつかたちを与えていくことです。物書きとしてその信念を貫くしかありません。(聞き手・小林孝也)
    −−「高村薫氏「異論排除の空気感、危うい」 「共謀罪」法」、『朝日新聞』2017年07月11日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/ASK797FMTK79UTIL02T.html





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