覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。
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悩んで読むか、読んで悩むか
誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん
2017年12月03日
70年生まれ。社会学者、詩人。『「居場所」のない男、「時間」がない女』など。
■相談 10年ぶりの再就職へ自信をもつには
子どもたちも手がかからなくなり、10年ぶりに仕事に出たいと思っていました。ところが、引き受けている子どもの学校の役員活動で、書類作成などをしている際に細かいミスを連発し、こんな状態では、とすっかり仕事に対しての自信をなくしてしまいました。こんな私に、また自信が戻ってくるような本はありますか?(東京都、主婦、46歳)
■今週は水無田気流さんが回答します
「自信をもちたい」とのお言葉、胸に迫りました。この社会では、出産で離職した女性が再び社会に出るとき、自信をもつことが難しいように思います。それは、主婦の時間が「生活の論理」によって出来ているからです。家族とりわけ子どもという「生きた自然」のケアは、何事につけ予定通りには行かず、コントロールは困難です。これに対して、「仕事の論理」は、合理性や効率性を前提とするもの。用語や数値をそろえ、コントロール可能な領域を増やすことを軸に、職場のルーチンワークは出来ています。問題は、生活の場での家事育児にお金はもらえませんが、職場の労働にはもらえるため、仕事のほうが価値があると、多くの人が考えがちな点です。人間にとっての必要性からは、どちらも価値ある労働なのですが。
子どものいる女性の再就職の際、陥りがちな罠(わな)を小気味よく解消する知恵を与えてくれる本として、まずはお薦めなのが、現在手に入りにくい本ではありますが、和田清華『ママは働いたらもっとスゴイぞ!』(ダイヤモンド社・1296円)です。子どもが生まれて人生がリセットされたからこそ、新しいスタートを切りましょう、自信がないのは当たり前。では、何から始めるべきか?時間の使い方から心身のメンテナンスまで項目別に書いてあり、参考になります。
もっともやもやとした、名づけ得ぬ感情に向き合う良書は、川上弘美『これでよろしくて?』です。些末(さまつ)だけれども、何となく釈然としない問題を、ただ話して記録を取るという「これでよろしくて?同好会」メンバーの会話を軸とした小説です。結婚後離職して専業主婦になったヒロインの感じている、社会や夫との距離感は、とりたてて問題にするようなものではないけれども澱(おり)のように溜(た)まっていきます。合理性を是とするこの社会の中で、主婦の生活は、名づけ得ぬ非合理的な部分を引き受けることを求められすぎているように思います。女性から自信や誇りを奪うような世間のもやもやは、吹き飛ばしていただけたら幸いです。
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次回は作家の三浦しをんさんが答えます。
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■悩み募集
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。水無田さんと三浦さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘(歌人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。
−−「悩んで読むか、読んで悩むか 誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2017120300016.html