覚え書:「都市は人なり−Sukurappu ando Birudoプロジェクト 全記録 [著]Chim↑Pom [評者]椹木野衣 (美術評論家)」、『朝日新聞』2017年11月05日(日)付。

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都市は人なり−Sukurappu ando Birudoプロジェクト 全記録 [著]Chim↑Pom
[評者]椹木野衣 (美術評論家)
[掲載]2017年11月05日



■野生で切り拓く冒険的なアート

 昨今、美術館での展示を巡る表現規制が目立つ。冒険的な企画の実現は次第に難しくなりつつある。アートが自然や都市の渦中に飛び出し、芸術祭と同化していく傾向には、そんな苦しい背景もあるように思う。だが、アートの祭典といってもたいていは公共事業だ。かえって縛られることも多いだろう。
 他方、本書のプロジェクトに税金は一切投入されていない。旧東京五輪を前に建てられた歌舞伎町商店街振興組合のビルが、新東京五輪を前に再び建て替えられるのを知り、自力で組合と話をつけた。昨秋の展覧会は解体までの限られた期間に借用して敢行された。
 作品もビル解体で瓦礫(スクラップ)と化したが、残骸を拾い集め、高円寺の雑居ビルに移し、新たに「道が拓(ひら)ける」と銘打って今夏、公開(ビルド)した。
 なぜ「道」だったのか。展覧会の準備中、増築に次ぐ増築で見えなくなっていた屋内に路地の痕跡が見つかったのだ。「私有空間」になっていたこの屋内をもう一度、街に開くことで「公共空間」に戻し、24時間、誰でも通行可能な道を作り出した。
 だが、道は美術館など比較にならない徹底した管理の対象である。自由だけでなく保全もしなければならない。アーティストがその道筋を自前と自力と協力者から得た信頼だけで切り拓いた意味は大きい。
 道からは、再開発で取り壊された渋谷パルコのネオンを眺めることができる。今はなき国立競技場の座席で休むこともできる。どれも東京というメガロポリスの記憶の断片だ。
 消えていた道が見つかったのは、制作の動機としてかれらが長くネズミと付き合ってきたからではないか。生きていくための野生を失わない限り、人はどこにでも道を切り拓く。
 書名は、敗戦後の焼け跡から町を立ち上げ「歌舞伎町」と名付けた人物の言葉だという。確かに、どんな繁華街も人が集う一本の道から生まれたに違いない。
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 チン↑ポム 05年に東京で結成した6人組のアーティスト集団。作品に「ヒロシマの空をピカッとさせる」ほか。
    −−「都市は人なり−Sukurappu ando Birudoプロジェクト 全記録 [著]Chim↑Pom [評者]椹木野衣 (美術評論家)」、『朝日新聞』2017年11月05日(日)付。

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