覚え書:「金木犀と彼女の時間 [著]彩坂美月 [評者]末國善己 (文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年11月19日(日)付。

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金木犀と彼女の時間 [著]彩坂美月
[評者]末國善己 (文芸評論家)
[掲載]2017年11月19日
  同じ時間を繰り返すループものには、名作が多い。青春ミステリーの名手がこの激戦区に挑んだ本書は、ループする期間が1時間、回数を5回に制限することで、独自色を出している。
 過去2回、予期せぬループを経験した菜月は、高3の文化祭の日、人気者の拓未から告白されるが、その直後にループした。だが2回目の時間では、拓未が転落死するという1回目にはなかった事件が発生する。
 菜月は、ループ回数が限られた中で拓未の死を回避する方法を見つけなければならないので、中盤のサスペンスは圧倒的。丁寧に伏線を回収しながら、意外な真相を導き出す終盤の謎解きにも驚かされるはずだ。
 菜月は、特殊能力を持つがゆえに他人との間に壁を作り、何度もやり直して正解のルートを探る。これはコミュニケーションや人生の選択に悩むことの暗喩に思えた。こうした葛藤は誰もが抱えているので、困難を乗り越えようとする菜月には共感も大きいだろう。
    −−「金木犀と彼女の時間 [著]彩坂美月 [評者]末國善己 (文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年11月19日(日)付。

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