覚え書:「社説余滴 北朝鮮化する日本? 箱田哲也」、『朝日新聞』2017年08月11日(金)付。

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社説余滴 北朝鮮化する日本? 箱田哲也
2017年8月11日

国際社説担当・箱田哲也
 
 軍事独裁政権の重い縛りを解き、韓国の民衆が自由を勝ち取って今年で30年になる。
 そんな節目の年に、「絶対権力」と言われる現職大統領を革命的に、しかも非暴力で引きずり下ろしたわけだから、韓国の帯びた熱は簡単には下がらない。
 ソウルであった30周年記念の国際会議をのぞくと、人々の陶酔感を肌で感じた。その際、何人かの韓国側出席者から同じような質問を受けた。
 権力者の公私混同にまつわる疑惑が浮上したという点では日韓とも似ているが、日本社会はどうしてかくも平穏なのか、という問いだ。
 状況が違うしなあ、と答えを考えていると、日本留学の経験がある学者が割り込み、「国民性の違い。日本は選挙で意思を示す」と解説した。
 韓国には市民が立ち上がって圧政を覆した成功体験がある。今回の大統領弾劾もそうだが、独裁復活のにおいが漂う不当な権力行使には極めて敏感なだけに「日本は自由社会なのになぜ」と考えるのも無理からぬことか。
 また、日本の一連の騒動は妙に韓国側を納得させていることも知った。「日本は法治や行政が成熟した先進国という印象だったが、実はそうでもないのね」「韓国特有かと思っていた忖度という概念は、日本にも根付いてたんだ」など、どこか安心したように感想を語るのだった。
 確かに日本の民主主義のイメージは傷ついたかもしれないが、日本留学経験者の指摘通り、東京都議選は安倍政権に大打撃を与えた。
 それに今は勢いづく韓国だった、いずれ民意と現実のはざまで苦悩の時を迎えよう。最高権力者の首はすげ替えたが、感情に流されず法理に基づき前大統領をさばけるのか、民主主義の真価が問われる。
 そういえば、関係者の間では数年前から「日本が韓国化した」とささやかれてきた。
 かつての韓国に、何もかも「日本が悪い」と批判する風潮があったように、最近の日本でも単純な韓国観が広がっており、それが嫌韓につながっているとの指摘だ。
 ソウル滞在中、日本通の韓国の重鎮とそんな話をしていると、こう切り返された。
 「ある日本のトップクラスの官僚など、口を開けば安倍首相はすばらしいと絶賛する。何かに似ていると思ったら、『偉大な指導者、金正日同志は』というあれだ。もう韓国を通り過ぎたんじゃないか」……。(国際社説担当)
    −−「社説余滴 北朝鮮化する日本? 箱田哲也」、『朝日新聞』2017年08月11日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S13082093.html





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