覚え書:「レッド・プラトーン−14時間の死闘 [著]クリントン・ロメシャ [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年12月10日(日)付。


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レッド・プラトーン−14時間の死闘 [著]クリントン・ロメシャ
[評者]市田隆(本社編集委員)
[掲載]2017年12月10日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝


■極限状態の兵士の行動を克明に

 アフガン戦争で窮地に追い込まれた米陸軍の小隊(プラトーン)元兵士がつづる戦記ノンフィクション。「戦闘をくぐり抜けたものはだれでも、戦いの恐ろしさを言葉では伝えることができないと知っている」としつつ極限状態の再現を試みた内容だ。兵士の荒い息づかいが聞こえるような迫力に引き込まれ、ほぼ徹夜で読んでしまった。
 9・11の米中枢同時テロを受け米国が始めたアフガニスタンでの戦争が長期化していた2009年10月。米軍に激しい敵意を示す山岳地帯に置かれた戦闘前哨拠点キーティングはすり鉢の底のような地形に置かれ「攻撃されればひとたまりもない」欠陥があった。そこにいた米兵約50人がタリバン兵300人以上の攻撃で壊滅の危機に陥った。
 辛くも守りきった14時間の戦闘を描いた本書で、死地にある戦友の絆の深さに圧倒される。互いの連携が自分の身を守ることになるがそれだけではない。自分の命をかけて傷ついた仲間を救い出し、仲間の遺体が敵に奪われるとネットにさらし者にされるため、それを恐れて回収にいく場面は特に印象深い。恐怖の中で複雑な感情からくすくす笑い出す奇妙な行動の描写も、戦場の兵士でないと表現できない重みを持つ。
 この戦闘は米国で大きく報じられたようだが日本では知る人が少ないと思う。戦争が今も続く中で、米軍機の誤爆や民間人の巻き添えが後を絶たず、タリバンからの解放を当初喜んだアフガンの市民も米軍を敵視するようになったことを伝える報道の印象が強い。
 著者も「自分たちがよそ者で、この土地に歓迎されていない」との意識を忘れていない。だが、米軍戦略の欠陥といえる拠点に配属されても「兵士は上官に疑問をぶつけるのが仕事ではない」として兵士の職務に徹した。不利な局地戦でも不言実行を貫く兵士たちの姿が痛ましく、描かれない不毛な戦争の全体像をかえって強く感じさせる。
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 Clinton Romesha 81年生まれ。米陸軍退役兵士。99年陸軍入営。イラクに2度、アフガニスタンに1度出征。
    −−「レッド・プラトーン−14時間の死闘 [著]クリントン・ロメシャ [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年12月10日(日)付。

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レッド・プラトーン 14時間の死闘
クリントン ロメシャ Clinton Romesha
早川書房
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