覚え書:「宗教から現代社会を問う 「激動する世界と宗教」シンポ」、『朝日新聞』2017年08月29日(火)付。
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宗教から現代社会を問う 「激動する世界と宗教」シンポ
2017年8月29日
対談する池上彰氏(左)と佐藤優氏=19日、東京都千代田区、恵原弘太郎撮影
人には「こころ」というつかみどころのないものがある。見えない何かに祈ったり、どう生きるか迷ったり。その道筋を示す一つとして、人類の歴史と共にあり続けてきたのが宗教だ。それは時に、国のかたちにまで影響を与えてきた。日本そして世界で起きていることの深層を、宗教という視点から見てはどうか。そんな問題意識から企画した連続シンポジウム。初回の様子をお届けします。
ニュース解説でおなじみの池上彰さん。そして宗教に詳しい作家の佐藤優さん。2人の対談は、お金の不思議さという話題で熱を帯びた。
佐藤さんによると、1万円札のもとは二十数円。それに価値を認めるのは「拝金教」という宗教を信じていることなのだと説明した。
池上さんはそうした話を受けて、お金のために人生を破滅させることもあると語った。
「私たちは、神といった超越的な存在を信じるのを宗教と考えていますよね。ただ、お金にも『超越性』がある。たかがお金のために自分の身を捧げるというのは考えてみると不合理ですね」
「お金という神さまがいる資本主義。その中で、私たちはどのように『良く生きる』ことができるでしょうか」
佐藤さんは「資本主義というのは、放置しておくと格差がどんどん広がってしまう」と言う。
その問題はいま、日本の宗教者の間でも深刻に受け止められている。経済成長を遂げたものの、明日食べるものにも困る人が増えている現実。そうした人々を前に何ができるのかといった議論が起きているのだ。
池上さんは、東日本大震災の被災地での例も挙げる。現場で祈りを捧げ、遺族に寄り添う僧侶たちのことを紹介した。
「虐げられている者や貧しい者に寄り添う。宗教者にはそういうことこそが求められています」
佐藤さんはそれに賛同し、こう述べた。
「お金の論理や資本の論理ではなく、そうした人たちと共にある。イスラム教、キリスト教、仏教といった世界宗教にはそんな普遍性があります」
2人は日本の宗教界が歩んできた道も振り返った。佐藤さんは、先の大戦とその後に残された問題に触れ、こう述べた。
「国家がいわば宗教の機能を果たしていたわけです。『神道は宗教にあらず』とされ、国民の慣習なのだから誰もが神札を受け取らねば、と。そうやって特定の宗教が『国教』として現れてくるのです。靖国問題では『宗教的に中立な追悼施設を造ってはどうか』という考えもありますが、そもそも国家としての追悼って必要かな、と思うんです」
宗教を巡るこれからの課題として、国家権力が暴走しそうなときに歯止めをかけようとするのも「信仰的良心」として非常に重要だと指摘した。「人間というのは悪の方向へ進みやすい。『軌道修正』をする役割が期待されています」
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いけがみ・あきら ジャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授。1950年生まれ。
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さとう・まさる 作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学部客員教授。1960年生まれ。
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〈戦前・戦中の宗教と国家〉 明治維新直後の1868年、新政府は、神道の祭祀(さいし)を国家の根幹の一つとする政策を進めた。全国の神社を国家が直接、管理・支援する制度が整えられていった。
1931年の満州事変の翌年には、カトリック信者の上智大学生が靖国神社での参拝を拒否して大問題となる事件も起きた。新宗教などへの弾圧も行われる一方、仏教界をはじめ、多くの宗教が軍部に協力するようになっていった。
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連続シンポジウム「激動する世界と宗教−−私たちの現在地」
第1回「宗教と資本主義・国家」
8月19日、東京・有楽町朝日ホール
角川文化振興財団主催、朝日新聞社・KADOKAWA共催
−−「宗教から現代社会を問う 「激動する世界と宗教」シンポ」、『朝日新聞』2017年08月29日(火)付。
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宗教から現代社会を問う 「激動する世界と宗教」シンポ:朝日新聞デジタル