覚え書:「メディア時評 読者の憲法理解、サポートを=曽我部真裕・京都大大学院教授」、『毎日新聞』2017年09月21日(木)付。


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メディア時評

読者の憲法理解、サポートを=曽我部真裕・京都大大学院教授

毎日新聞2017年9月21日 東京朝刊

 直近ではやや落ち着きを見せているが、ここ数年来、憲法改正問題が現実の政治日程に上ったことや、今年が憲法施行70年に当たることもあり、憲法に関する記事が増えている。

 毎日新聞8日朝刊オピニオン面では、「論点 シリーズ憲法70年」として、「教育無償化の道は」というテーマで3人の識者(元副文部科学相、教育行政学研究者、PTA全国組織会長)のインタビューが掲載された。

 このような体裁の記事は各紙で見られるが、背景知識のない一般の読者にとっては、それが従来の憲法の解釈や、憲法の規定を受けた具体的な法制度とどのような関係にあるのかが理解しにくいこともある。たとえば、鈴木寛元副文科相の発言の見出しには「『学習権』保障の明記を」とあるが、学習権とは何か、あるいはこれまでの憲法論で学習権という考え方があったのかどうかという背景知識がなければ、鈴木氏の主張を十分理解することができないだろう。

 また、今回はたまたまそうではないが、この種の欄に憲法学者が登場することも当然ながらよくある。その場合、重要な背景知識として、それが学界で共有されている見解なのか、その論者の独自の主張なのかといったことも読者に伝わるようにすべきではないか。

 あらゆる公共的な議論と同じく、憲法に関する議論も過去からの積み重ねの結果、今がある。憲法改正が現実味を帯びたものとなってきた昨今だからこそ、読者がこれまでの議論の蓄積との関係で識者の主張を理解できるようにする必要がある。それなくしては社会での憲法論議はいつまでも成熟に向かわないだろう。

 この点に関して新聞の役割は大きく、紙面の工夫が期待される。たとえば、識者の発言を受けて、論説委員らによる解説をあわせて掲載することなどが考えられないだろうか。オピニオン面はあくまでも識者の意見を掲載するもので、それによって読者に考える材料を提供するものであると言われそうだが、よりよく考えられるようサポートするのも新聞の役割だろう。(大阪本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評 読者の憲法理解、サポートを=曽我部真裕・京都大大学院教授」、『毎日新聞』2017年09月21日(木)付。

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