日記:日本の社会運動の特徴


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日本の社会運動の特徴
 それでは最初に、私が日本の社会運動の特徴と考えることから述べましょう。
どこの社会にも特徴があります。それじたいは悪いことではありません。しかしそれを「文化」とか「風土」と言ってしまうと、それ以上に分析が進みません。分析が進まないと、変えようのない運命だとあきらめてしまいがちです。あるいは、西洋の「進んだ理論」を輸入して在来のものを全否定するか、その逆に「輸入思想」を全否定するかといった、不毛な対立に陥ります。
 それを避けるためには、どういう特徴が、どういう社会背景のもとで形成されたか、を調べなければなりません。それがわかれば、どこをどう変えればいいか、いまの時代ではどう変えるべきなのかが、わかるはずです。
 戦後日本の社会運動には、三つの特徴があったと考えられます。
一つは、強烈な絶対平和志向です。たいていの国で強い平和主義は、世界秩序の安定を乱す戦争はいけないが抑止力は必要だという戦略的平和主義や、侵略戦争は批判するが「革命戦争」や「独立戦争」は肯定する思想的平和主義に属します。すべての戦争を否定する絶対平和主義が、戦後日本ほど勢力を持った国はありません。
言うまでもなく、これは第二次世界大戦の悲惨な経験からきています。憲法のほかの条項は知らないけれど第九条だけは知っている、逆にいうと第九条以外はよく知らない、という人は少なくありません。
 二つめは、マルクス主義の影響が強かったことです。同じマルクス主義といっても、労働政党が議席を獲得して福祉社会をめざすという社会民主主義ではなく、少数精鋭の前衛党を組織して革命で政権をとるというレーニン主義の影響が強いものがありました。
 これは、一九五〇年代くらいまでの日本が、開発独裁型の発展途上国に近かったことの影響です。前衛党というのは、大衆の教育程度が低く、政治や言論の自由が少ない社会に適しているからです。
三つめは、倫理主義の強さです。
    −−小熊英二『社会を変えるには』講談社現代新書、2012年、87ー88頁。

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