覚え書:「軍事的研究、大学で認識差 「指針あり」3割どまり 朝日新聞調査」、『朝日新聞』2017年09月30日(土)付。

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軍事的研究、大学で認識差 「指針あり」3割どまり 朝日新聞調査
2017年9月30日


写真・図版
今年2月に日本学術会議が開いた「学術フォーラム」。科学者の軍事的な研究について慎重な意見が相次いだ=東京都港区
 大学の軍事的な研究に対する考え方などについて、朝日新聞が全国立大と大規模私立大の計116大学に実施したアンケートでは、研究指針や声明などの決まりを持つ大学は約3割にとどまった。ただ、「検討中」と回答した大学も複数あり、議論は続いている。

 ■検討中23校、様子見も

 今回のアンケートで大学に軍事的な研究に関する決まりが「ある」と回答した大学は35校にとどまり、「ない」が64校で全体の55%と過半数だった。「ない」と答えた大学のうち、新たに指針や声明など、大学としての見解を出すことを「検討している」は23校で36%、「検討していない」が40校で63%だった。

 「検討している」大学に対して方向性を聞いたところ、軍事分野の研究を「認める方向」という回答はなかったが、「認めない方向」が7校、「どちらとも言えない」が14校。問い合わせに「他校の動向を注視している」と打ち明けた大学もある。

 防衛装備庁が国の防衛分野の研究開発に役立つ基礎研究にお金を出す「安全保障技術研究推進制度」についても尋ねた。今年度、応募希望が「あった」と回答したのは13校で、全体の1割。このうち、応募を「認める」が岐阜、鹿児島、東海、東洋の4校だった。「応募希望はなかった」は85校で全体の73%。18校が回答しなかった。

 応募の可否について全大学に尋ねた質問では、「全面的に認める」はなく、「条件つきで認める」が6校、「認めていない」が37校。ただ、すでに参加した九州工業大や東京工業大などを含め「その他」が47校にのぼった。

 応募の可否に関する最終判断は「大学」が80校で全体の69%と多い。判断するのは、「常設の学内組織」が34校、「学長・総長の判断」が33校と拮抗(きっこう)した。

 軍事的な研究については、「学内の研究指針で一切認めていない」大学でも、同庁の制度への応募は「条件つきで認める」と回答した大学もある。制度をどうとらえるかは、大学でも分かれているようだ。

 実際、この制度が「軍事を目的とする研究につながる」という意見には「賛同する」が26校、「賛同しない」が5校、「どちらとも言えない」が57校だった。

 研究推進制度に今年度参加の4大学については未公表だが、昨年、一昨年に参加した大学で見ると、豊橋技科大、東京理科大東京農工大はアンケートに「回答できない」としている。北大などは回答はしたが、空欄が目立った。また、採択審査にかかわる評価委員を出した大学(名誉教授を含む)では、前述の東京理科大東京農工大に加え、東大も回答していない。

 ■「危険な慣れ」に/定義づけ困難 防衛装備庁の研究制度、どう判断

 安全保障技術研究推進制度は、「軍事的な研究」につながるのか。各大学の自由記述では、この点で意見が分かれた。

 制度の公募要領には、「将来の防衛分野における研究開発に応用できる可能性のある萌芽(ほうが)的な技術を対象としたもの」と記されている。これを踏まえ、東北大は「軍事を目的とする研究につながると考える」とした。茨城大も公募要領に明記されていることを挙げ、「『軍事を目的とする研究につながる』と十分に解釈できる」。群馬大も、「軍事を目的とする研究に直結していると考えられる」と書いている。東北大と茨城大は、指針や声明などの決まりを持たないが、現在検討中で、今年度中に結論を出す予定だ。

 決まりを持つ長崎大は、研究費が防衛装備庁から提供されることを根拠に「将来、軍事目的(もしくは軍事関連目的)に使用できる技術の開発を目指していることは明白」として、「当該研究の実施は『危険な慣れ』を生むと危惧する」と記した。

 一方、「軍事研究を定義づけることは実質不可能だと考える」(宮崎大)など、制度が軍事的な研究につながるという意見に賛同しない大学もあった。

 「どちらともいえない」と回答した大学もあり、岐阜大は「軍事を目的とする研究につながるかどうかは、研究成果を利用する者によると考えられる」、京都大は「(公募で)専ら民生活用の課題が設けられた場合のことを考慮すると、どちらとも言えない」と回答した。

 東京慈恵会医科大は、「学術の健全な発展という見地から科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重されると考えられる」ため、「どちらともいえない」としている。

 「学術の健全な発展のためには、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される国立大学運営費交付金科研費などの民生的な研究資金を充実させていくことが必要である」(福島大)という意見もあった。

 (竹石涼子、杉原里美)

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 調査は今年6月から7月にかけて、全国立大86校と私立大のうち国の経常費補助金交付額(2015年度)が上位30校の計116大学を対象に実施。85%にあたる99大学が回答した。
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