覚え書:「政治断簡 分断包み込む寛容さ、本物か 世論調査部長・前田直人」、『朝日新聞』2017年10月02日(月)付。

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政治断簡 分断包み込む寛容さ、本物か 世論調査部長・前田直人
2017年10月2日

 今年は酉(とり)年。大乱の年かもしれないことを年頭の記者会見で指摘したのは、ほかならぬ安倍晋三首相である。

 「12年前、劇的な郵政解散があった。そのさらに12年前は、自民党が戦後初めて野党になり、55年体制が崩壊した歴史的な年だった。酉年は、しばしば政治の大きな転換点となってきた」

 そしてついに、決戦のときがきた。前原誠司代表率いる民進の混乱を尻目に、「いまなら負けない」と踏んだのだろう。首相は臨時国会冒頭の衆院解散に踏み切った。

 だがいま、眼前に広がるのは「まさか」の風景である。突如現れた東京都の小池百合子知事が代表の「希望の党」。前原氏は「名を捨て実を取る」と、そこへ民進を合流させるという荒業に出た。首相の存在感はかすんでいる。

 「酉年選挙」はまさに、大乱の雲行きである。

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 再編劇は、「破壊と創造」の過程でしぶきをあげる。

 首相の衆院解散表明を受けて朝日新聞が9月26、27日に行った世論調査は、目を見張るものだった。衆院選比例区でどの政党に投票したいかを尋ねると自民は32%、希望の党は13%、民進は8%。27日に結党の記者会見をしたばかりの希望の党が、野党第1党に躍り出た。無党派層では、トップを走っていた。

 こうした設問では、第1党である自民が高く出る傾向がある。民進をのみこんだ希望の党が連合の支援も得れば「さらに勢いを増すはずだ」と、与党関係者はおののく。

 さながら「小池マジック」だが、小池氏はかねて改憲派タカ派色が強い。リベラル派には「小池氏に思想で選別され、排除される」との警戒心が渦巻き、リベラル再結集の動きが急速に広がる。

 またぞろ、思想対立である。アンチリベラルの性格が色濃い安倍政権支配が生んだトラウマは深い。特定秘密保護法集団的自衛権、9条改憲などをめぐる闘争は左右対立を先鋭化させ、真ん中の緩衝地帯を空洞化させた。

 「日本をリセットする」

 小池氏のこの言葉が、今回のストーリーの軸だろう。「安倍1強」をリセットし、保守層に切り込む。だが、その先は闇に覆われている。

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 小池氏は、カメレオンのように幻惑的だ。「反自民」と「自民の補完勢力」との見方が交錯し、疑心が広がる。

 希望の党綱領には、民進党綱領と共通する「立憲主義」という言葉や、「深刻化する社会の分断を包摂する、寛容な改革保守政党を目指す」との表現もある。聞こえはよいが、リベラル勢力を排除するなら、分断は終わらない。

 「しがらみ政治からの脱却」というスローガンも、あまりに空疎だ。政治の任務は利害調整であり、しがらみ否定は独裁にもつながる。

 まして小池氏が衆院選に出るなら、政権選択のムードがいっそう高まるだろう。

 自民の対抗勢力の出現は民意に沿ったものだとしても、生まれた政党が怪物なら、あしきポピュリズムでしかない。「包摂」と「寛容」は本当か。その実態は、厳しく吟味されなければならない。
    −−「政治断簡 分断包み込む寛容さ、本物か 世論調査部長・前田直人」、『朝日新聞』2017年10月02日(月)付。

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