覚え書:「社説 米の乱射事件 銃社会の悲劇いつまで」、『朝日新聞』2017年10月04日(水)付。


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社説 米の乱射事件 銃社会の悲劇いつまで
2017年10月4日

 観客2万人を超す野外コンサートに銃弾が降り注いだ。悪夢のような光景である。

 米国ラスベガスの日曜夜を襲った銃乱射事件は、500人を超す死傷者をだした。米史上最悪の乱射事件と伝えられる。

 この観光都市には当時、日本の修学旅行生も滞在していた。いつ誰が犠牲になるかわからない銃社会の恐ろしさを浮き彫りにした。今度こそ、米国は銃規制に真剣に取り組むきっかけにして欲しいと、強く願う。

 容疑者は、地元の64歳の白人男性。近くのホテルの32階から自動小銃を連射した。当局は国際テロとの関係はないと見ており、動機を調べている。

 驚かされるのは、ホテルの部屋に23丁もの銃があり、自宅からも19丁の銃や数千発の銃弾、爆発物などが見つかったことだ。当局はまったく把握していなかったという。

 トランプ大統領は緊急声明を発表したが、銃規制には触れなかった。極めて残念だ。

 昨年の大統領選で、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の支持を受け、武器所有の権利を定めた憲法修正2条を守ると表明した。支持基盤の保守層を強く意識したものだ。

 「銃を持った悪者を止められるのは、銃を持った善人だけだ」とは、NRAの言い分だ。だが今回はそんな理屈も、むなしく響く。高い建物からの自動銃の連射に対して、善なる銃も「自衛」しようがない。

 米国の銃規制の取り組みは、頓挫を繰り返してきた。クリントン政権時の94年、半自動小銃の製造と販売を禁じる時限立法が成立したが、ブッシュ政権下の04年に失効した。

 12年に26人が死亡したコネティカット州の小学校での事件を機に、オバマ政権は自動小銃の規制強化と購入者の犯罪履歴確認の厳格化をめざしたが、法案は上院で否決された。

 その後も昨年にフロリダ州のナイトクラブで49人が死亡するなど悲劇は続いたが、銃の権利を擁護する特定の政治圧力は根強い。近年は、乱射事件が起きるたびに銃の売り上げが急増する現象も続いている。

 国際的に見ても、米国内での3億丁という流通量は、常軌を逸している。1960年代後半以降、世界で起きた主な乱射事件のうち約3分の1は米国で発生したとの調査結果もある。

 米国を尊敬される国にするというなら、トランプ氏はこれ以上、野蛮な銃社会を黙認してはならない。米国民と世界からの訪問客のために、銃規制の強化と取り締まりに動くべきだ。
    −−「社説 米の乱射事件 銃社会の悲劇いつまで」、『朝日新聞』2017年10月04日(水)付。

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(社説)米の乱射事件 銃社会の悲劇いつまで:朝日新聞デジタル