日記:戦後日本の「民主主義」


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戦後日本の「民主主義」
 右記のうち、はじめの二つの特徴、平和志向とマルクス主義が入り混じることで、戦後日本の特徴的な政治配置が生まれました。
 まず戦後日本で、共産党社会党が長く影響力を保ったのは、マルクス主義の政党だったからというより、「平和の党」だったからでした。
(中略)
 当時の日本では、必ずしもマルクス主義が一般社会で広く支持されていたわけではありませんでした。しかし、戦争は二度とごめんだ、言論制限や男女平等廃止などはまっぴらだと思っていた人たちはたくさんいました。こうした人びとが、保守政党の動向を警戒し、社会党共産党に投票しただけでなく、入党したり指導を受けたりしながら運動を行いました。
 こうした人びとは、広い意味で「民主主義を守る」という意識をもっていました。そこでいう「民主主義」というのは、漠然とした「戦前回帰」への反対であり、「戦争はごめんだ」という感情の表現でもありました。
 ですからその「民主主義」は、議会制民主主義だけのことではありませんでした。そこには、平和志向・男女平等・愛国心教育反対など、「民主主義」とは必ずしも不可分とはいえない事項も含まれていました。
 たとえばフランスでは、国旗は「自由・平等・友愛」のシンボルですから、国旗を掲げることは民主主義と両立しますし、「国旗を掲げた反戦運動」や「人種差別をなくすための愛国心教育」もありえます。植民地独立戦争を戦った国々では、勇敢な革命軍兵士であることと、独立後の国家を愛することは、民主主義と両立します。
 ところが戦後日本では、そういう関係が成りたちませんでした。保守政党の側が、そういう「愛国心」や「民主主義」の多様性にたいする想像力をまったく欠いたまま、たんなる戦前回帰を「愛国心」の名のもとに押しつけようとしたことが最大の原因であることはいうまでもありません。
    −−小熊英二『社会を変えるには』講談社現代新書、2012年、88ー90頁。

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