覚え書:「「防衛省の制度 放置できない」 学術会議の山極新会長」、『朝日新聞』2017年10月12日(木)付。


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防衛省の制度 放置できない」 学術会議の山極新会長
嘉幡久敬2017年10月12日

 日本学術会議は、今月開いた総会で京都大総長の山極寿一(やまぎわじゅいち)氏(65)を新会長に選出した。学問の自由・自律、政治からの中立性などを目標に挙げる山極氏は、懸案課題の「学術界における軍事研究」について委員会を常設して議論を続ける方針だ。今後の取り組みについて、山極氏に聞いた。

学問の自由への懸念 軍事研究めぐる学術会議声明
■「政治との中立性保ち、社会に発信する態勢を」

 ――「学術と軍事」の議論をどう進めるべきか。

 学術会議は声明と報告で、(軍事研究を否定した)過去2度の声明を継承すると明言している。軍事といっても幅は広いが、学術の立場をどう築くか、常設の委員会で議論したい。学者だけでなく国民、社会との対話を通じて考えなければならない。

 ――常設委ではどのような議論をするのか。声明を見直す可能性はあるのか?

 声明を見直すつもりはない。声明とは、ころころ変えるものではない。常設委では、学術の軍事に対する距離の置き方などを検討する。声明が社会にどう浸透するか検証し、それを踏まえて新たな提言などを考えたい。

 ――防衛省の研究費制度のあり方について、存廃を含めて提言するのか?

 声明が「問題が多い」と指摘したものを放置しておけない。どう議論するか、提言するかどうかは会員の考え方次第だが、常設委の議論のテーマとしてはありうると考えている。

 ――学術はどうあるべきか。

 自由に、自律して学問を展開できることが重要だ。大学などとも連携しながらそれらを確保していく。政治との中立性を保ちつつ、提言を通して学者が責任を持って社会に発言する態勢を作りたい。

 ■軍事研究 一貫して慎重姿勢

 学術会議は内閣府の組織だが、独立して政府に勧告を行うことができる。防衛省が2015年度、大学などに予算をつける「安全保障技術研究推進制度」を始めたのをきっかけに、学術会議は検討委員会を設けて学術と軍事の関係について議論し、今春、声明を発表した。学問の自由を損ねることを理由に、防衛省の制度を「問題が多い」と指摘。1950年と67年の声明を踏襲し、軍事研究を否定する内容だ。

 同制度の予算額は年々増えている。大学の研究者による今年度の応募は22件。学術会議は各大学や研究機関に対して、軍事が絡む研究の可否を審査する制度作りを進めるよう求めている。

 山極氏は学術会議の委員の時から、軍事研究への慎重姿勢を示してきた。前任の大西隆会長が「国民の9割が自衛隊の存在を認めている状況を踏まえるべきだ」と述べ、自衛のための技術研究を認めるよう主張したのに対し、山極氏は「自衛隊の活動全般について国民の総意は得られていない」と異を唱えた。

 また、防衛省の同制度についても「成果の活用は防衛省の判断に委ねられ、研究者の意思が反映されない」と指摘。「研究者の中立性と自由な判断をさまたげ、到底受け入れられない」との立場を表明した。

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    −−「「防衛省の制度 放置できない」 学術会議の山極新会長」、『朝日新聞』2017年10月12日(木)付。

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