覚え書:「半分世界 [著]石川宗生 [評者]円城塔  (作家)」、『朝日新聞』2018年03月18日(日)付。

        • -

半分世界 [著]石川宗生
[評者]円城塔  (作家)
[掲載]2018年03月18日

 筆力に驚かされる。
 デビュー作とは思えない整った文章や、思い込みを突いてくる比喩。それも印象的なのだが、なによりもバランス感覚である。
 たとえば、町がたくさんの同一人物たちに埋め尽くされる「吉田同名」。あるいは縦割りにされて中の見える家に暮らす一家を描く表題作。
 会話の中でふと浮かんだようなホラ話といった主題であるが、作者はそれを生真面目に淡々と展開していく。純粋な嘘(うそ)からはじめる話は難しい。馬鹿馬鹿しさの程度をこえるとすぐにそっぽを向かれてしまう。それを大通りを歩くように悠然とすすめる。
 一般に、ホラ話はホラ話として幕を降ろす。この短編集で特徴的なのは、ホラ話たちは成長を続けるうちに自らの殻を食い破り、その向こう側へ突き抜けてしまうところである。
 下手な教訓や、お涙頂戴(ちょうだい)ではなくて、そこには、これまでみたこともなかった笑いの果ての風景が広がっている。
    −−「半分世界 [著]石川宗生 [評者]円城塔  (作家)」、『朝日新聞』2018年03月18日(日)付。

        • -





みたこともない笑いの果て|好書好日











半分世界 (創元日本SF叢書)
石川 宗生
東京創元社
売り上げランキング: 80,507