覚え書:「著者に会いたい 小説禁止令に賛同する いとうせいこうさん」、『朝日新聞』2018年04月07日(土)付。


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著者に会いたい 小説禁止令に賛同する いとうせいこうさん

著者に会いたい
小説禁止令に賛同する いとうせいこうさん
2018年04月07日

いとうせいこうさん

■暗い時代に素っ頓狂を書く いとうせいこうさん

 なんともおかしな小説である。近未来の列島で小説禁止令が発布されている。75歳の「わたし」は芸人の世界に詳しく、俳句界の巨匠・金子兜太と親交があり、批評家・柄谷行人を敬愛する。将来の著者を思わせる主人公はしかし、新しい戦後にペンを奪われ、いち早く小説禁止令に賛同した作家だった。
 「随筆と小説のギリギリ」をめざしたという。夏目漱石中上健次の作品を通じて小説の構造をとらえようと論じ、過去形を使うと事実らしくなると小説技術を冷笑する。自身の過去の作品も引いて、私小説メタフィクション、文芸評論、どれも一部があてはまり、全体はそうでない。きまじめな語り口は滑稽さを増幅させる。
 「いらいらしながら書いていたらこうなっちゃった」とのこと。「人間はどうしてこんなに愚かなんだ、と。今の政治に対する反発ややるせない怒りがこれを書かせた。暗い時代に素っ頓狂なことを書くのも小説家の役割だと思う」。不完全でぽんこつな方が小説はきっと自由なのだ。「“名作”じゃない感じがあれば成功です。名作みたいなものこそが戦争へと動かしていく感じがする。人々を一つにして」
 テレビに舞台、音楽、しばしば仏像を見る旅をする。多忙な人だ。それなのに、別の作品を書きあぐねて「小説とは何か」を考えていたら、3、4カ月で本書ができたという。夢中になると書くスピードがどんどんあがる。
 ほぼ同時期に、ルポ『「国境なき医師団」を見に行く』(講談社)を書き、精神科医でミュージシャン星野概念との対談『ラブという薬』(リトルモア)も刊行された。ノンフィクションにフィクションの筆致が混ざり、エッセーには小説の世界が侵食する。器用なのか不器用なのか。
 出演する舞台が6月から始まる。「こういう時期に書きたくなる。小説を書いているときは読者の反応は感じることはできない。舞台は出ていっただけで客の様子が肌でわかる。肌でうけるほど書く意欲がわく。ひとつのことだけやれとなると、具合が悪くなりそう」
 (文・中村真理子 写真・伊ケ崎忍)
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集英社・1512円
    −−「著者に会いたい 小説禁止令に賛同する いとうせいこうさん」、『朝日新聞』2018年04月07日(土)付。

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