覚え書:「改憲の足音、公布71年 赤坂真理さん、ピーター・バラカンさんに聞く」、『朝日新聞』2017年11月03日(金)付。

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改憲の足音、公布71年 赤坂真理さん、ピーター・バラカンさんに聞く
2017年11月3日

写真・図版
赤坂真理さん

 日本国憲法は3日で公布71年を迎える。衆院の8割が改憲派とされ、最も改憲が近づいた記念日と言えるかもしれない。ただ、熱いのは一部の国会議員や学者、熱心な運動家ばかり……。その議論、どこか欠落していませんか。海外の視点も交え、2人に聞いた。(木村司)▼3面=論議動き出す

 ■憲法、「わからない」から始めたい 赤坂真理さん(作家)

 憲法改正は時間の問題かもしれませんが、護憲派も、改憲派もウソがある。

 「日本人の平和に対する願いが憲法に実った」と護憲派は言ってきましたが、隠してますよね。「GHQ(連合国軍総司令部)の民政局が草案を書きました」となぜ言わないのか。「もらったのだけど、美しく、精神的な支えになってきました」と言えばいいでしょう。

 改憲したい安倍晋三首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」と言いますが、その内実は戦後レジームそのもの。トランプ米大統領就任直後に訪米した安倍首相はハグされて喜んでいましたが、「恥ずかしいほどの対米追従」です。

 憲法といわれても私には正直、自分たちのものだという体感がない。憲法で権力を制限するという「立憲主義」。立憲民主党枝野幸男さんは衆院選で「立憲主義に戻ろう」と語っていましたが、「人権宣言」や「独立宣言」など、憲法の大もとみたいなものをつくった欧米と日本では、憲法が出来た背景が違います。欧米に学び、立憲主義はこういうものだというけれど、憲法という概念を腹の底から欲した経験が私たちにはありません。

 憲法も、立憲主義も、民主主義もわからない。そこから始めたい私にもわかるテキストが今、世界のニュースにあります。トランプ大統領です。難民の入国制限などを巡って、大統領令が司法によって何度も差し止められました。憲法がまさに機能しています。「憲法を保ち、保護し、守る」。これが米国大統領就任式での宣誓内容です。

 立憲主義が本当にあるなら、それが書かれていないことが日本国憲法の大きな不備かもしれません。「憲法は時の政権や政府の上位にあるもの」。そんな条文を書き加える議論が、まずはあっていいと思います。

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 1964年東京生まれ。米国で天皇の戦争責任を問われる少女を描いた小説「東京プリズン」が大きな反響を呼んだ。評論に「愛と暴力の戦後とその後」。

 ■改正、じっくり議論できるか注視 ピーター・バラカンさん(ブロードキャスター

 日本に暮らして40年になりますが、相手の気持ちを察し、気配りができるのは日本人の特性の一つだと感じています。ただ、別の見方をすれば、これは忖度(そんたく)。公僕である政治家を「先生、先生」と呼んでありがたがるような縦社会と相まって、権威のある人を喜ばせようとする傾向がある。

 憲法改正は最後は国民投票で決めますが、こうした国民性のもとでは、権力者の都合のいい改憲につながるかもしれません。

 英国では昨年、欧州連合(EU)離脱を問う国民投票があり、離脱派が過半数を占めました。市民は、EUに多少の不満はあっても現状維持を望んでいたでしょう。でも、政権が国民投票を提案すると、一部の人が声をあげ、メディアが取り上げた。デマも飛び交って、一般市民もだんだんあおられていったのです。

 日本での憲法改正国民投票は早ければ来年。でも現状はどうでしょう。自衛隊南スーダン派遣では存在する日報がないと言われた。衆院解散は野党の混乱を計算したもので、有権者にじっくり判断してもらう姿勢とはいえない。北朝鮮情勢で政治家もメディアも、あおるばかりです。

 国民投票は究極の民主主義です。9条は世界に誇るべきものだと私は思いますが、徹底的に議論して改正多数となればもちろん尊重したい。ただ、今のままでは心もとない。判断材料は示されているか、改正で何がどう変わるのか、メリットやデメリットは。十分議論を尽くす時間が確保されるか。こうしたことを注視していく必要があります。

 「ある日気づいたらワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。あの手口に学んだらどうかね」。4年前になりますが、当時も今も副総理の麻生太郎氏の発言。撤回しても私は忘れません。

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 1951年ロンドン生まれ。大学で日本語を学び、74年に来日。ラジオやテレビの音楽番組に多数出演。近著に「ロックの英詞を読む――世界を変える歌」など。
    −−「改憲の足音、公布71年 赤坂真理さん、ピーター・バラカンさんに聞く」、『朝日新聞』2017年11月03日(金)付。

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