覚え書:「太陽系観光旅行読本―おすすめスポット&知っておきたいサイエンス [著]O・コスキー、J・グルセヴィッチ [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2018年04月28日(土)付。
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太陽系観光旅行読本―おすすめスポット&知っておきたいサイエンス [著]O・コスキー、J・グルセヴィッチ
[評者]宮田珠己(エッセイスト)
[掲載]2018年04月28日
子どもの頃SFに夢中だった。なかでも好きだった小説は、太陽系の各惑星にそれぞれ独自の文明があるという設定で、文庫本の巻末に各惑星の案内がついていた。たとえば水星は常に太陽に同じ側を向けているため、昼と夜の間の細長いゾーンにだけ生き物が暮らし、豊富な鉱物資源を利用した宇宙船産業が盛ん、水星人は小柄で喧嘩(けんか)っ早い云々(うんぬん)。地図もついていて、それを眺めながら私は宇宙旅行の夢を見た。生きている間に可能になるとは思わなかったものの、想像するだけで胸が躍った。
ところがである。成長し現実を知ると、大きな失望を味わうことになった。
金星は雲に覆われ暑く、冥王星は暗くて寒く、観光してる場合じゃなさそうなのだ。木星や土星にいたってはガスの塊で、地面すらないという。地面がない? そんな惑星ありなの?
惑星間の移動もずいぶん時間がかかり、最初は興奮してもすぐに退屈しそうだ。それで惑星に降りられないんじゃ、いったい何しに出かけるというのか。
そうして世に先んじて宇宙旅行に飽きてしまった私は、懐疑的にこの本を読んだのである。
だが、失望するのはまだ早かったようだ。
木星の大赤斑と土星の輪はやっぱり魅力的だし、グランドキャニオンの4倍も深い火星のマリナー渓谷、地球の1千倍も強力な木星のオーロラ、木星が満月の100倍大きく空を覆う衛星アマルテア、ときに高さ160キロも噴き出す土星の衛星エンケラドゥスの間欠泉など、現実の太陽系も見どころいっぱい。降りられない星は船で浮かんで観光すればよく、巨大惑星はちゃんと地面のある衛星をいくつも従えていた。
地球の観光地をはるかに凌(しの)ぐスペクタクル。まだまだハードルはあるけれど、なんだかそのうち行けそうな気がする。実現したら、大赤斑をバックにインスタ映えする写真を撮ってきたい。
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Olivia Koski、Jana Grcevich ふたりとも宇宙旅行専門の旅行代理店ITBで中心的な役割を担っている。
−−「太陽系観光旅行読本―おすすめスポット&知っておきたいサイエンス [著]O・コスキー、J・グルセヴィッチ [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2018年04月28日(土)付。
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