日記:あまりに行きすぎた不平等


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 多くの人が、あまりに行きすぎた不平等を心配している。過去数年、?ウォール街を占拠(オキュパイ)せよ?からはじまったオキュパイ運動(the Occupy movement)は、もっとも背の高い巨人、すなわち「1パーセント」の高所得者層の急速な成長に抗議するものだった。主要な都市で運動の参加者は野宿をし、即席の大学を開いて、不平等が拡大する理由や対策を議論した。経済学の教授も議論に参加した。フランスの経済学者、トマ・ピケティ(1971〜)は2014年に『21世紀の資本(Capital in the Twenty-First Century)」を出版し、富裕層の成長を検証して、格差がいかに急速に広がっているかということに対する不安を確認した。
 巨人はいかにして、これほど大きくなったのだろうか。カール・マルクスによると、高所得者層は金儲けのために労働者を搾取する資本家だ。ヨーゼフ・シュンペーターは、彼らはリスクを負う勇敢な人々で、運が良ければ裕福になれると考えた。従来の経済学ではこれほど多彩な説明はしていない。問題となるのは、大多数の人の所得の源である資金がなにによって決まるかである。この経済学では、労働者は生産に貢献した分の賃金を得ると説明する。教育を受けた人は、生産性をよりいっそう高めるスキルをもっているため、よりいっそう高い賃金を得られる。とくにこの数十年間は、技術の進歩によってその傾向がより強くなった。コンピューター・プログラミングやエンジニアリングの訓練を受けた人は良い稼ぎを得られる。ハンバーガーの調理係や清掃係などの非熟練労働者は取り残される。
 これに対してピケティは、そんな単純なことではないと主張した。もっとも背の高い巨人の収入が飛び抜けているのは、飛び抜けた生産性の成果ではないという。木を切っている人の生産性を計算するのは簡単だ。1日何本の材木を切りだしたかを数えればいい。しかし、トヨタのような巨大企業の経営幹部の貢献度はどう計算すればよいのだろうか。企業の収益は世界じゅうで働く何千もの人の努力の成果であり、そのうちのひとりの生産性を特定することは難しい。幹部の所得は、企業の慣習や、過去の幹部の報酬額で決まる、とピケティは考えた。
    −−ナイアル・キシテイニー(月沢李歌子訳)『若い読者のための経済学史』すばる舎、2018年、314−315頁。

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