覚え書:「ニッポンの宿題 なり手不足の地方議会 中村健さん、戸田靖子さん」、『朝日新聞』2017年12月13日(水)付。


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ニッポンの宿題 なり手不足の地方議会 中村健さん、戸田靖子さん
2017年12月13日

写真・図版
町村議会の現状<グラフィック・前川明子>
 
 地方自治体では議員のなり手不足が問題になっています。議論が低調で執行部に対するチェック機能も十分に果たせない議会があり、「身近な民主主義」は危機にひんしています。地方政治に女性や若い層を呼び込み、活性化する手立てはあるのでしょうか。

 ■《なぜ》低い報酬と「名士職」の意識 中村健さん早稲田大学マニフェスト研究所事務局長)

 地方の自治体は、首長や議員のなり手不足の問題に直面しています。2015年の統一地方選挙では、町村議員は定数の約22%が無投票当選で、03年に次ぐ過去2番目の高さでした。無投票当選の町村長は43%にのぼりました。投票率も下がっています。

 地方自治は、住民が首長と議員をそれぞれ直接選ぶ二元代表制です。首長(執行部)は自治体の執行権を持ちます。議会には議決権があり、執行部をチェックします。首長も議員も無投票当選が増えれば、特定の人が地域の政治を独占することになります。住民の要望を執行部に伝える「御用聞き」が仕事だ、と誤解している議員もいます。執行部の決定を追認するだけの議会では、二元代表制は機能しません。

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 なぜ、議員のなり手がいないのでしょうか。地方では農漁業や商業が衰退し、過疎化が進んでいます。組織選挙の母体となってきた農協や漁協、商工会などの力が弱まっています。サラリーマンは都市部に車で通勤し、自分が住む地域への関心は薄れています。

 自治体は財政が厳しく、住民の要望を実現するのが困難になりました。むしろ負担を求めることも少なくありません。首長や議員の仕事がやりがいがある、とは言いにくくなったのです。

 そのうえ議員報酬は十分ではありません。全国町村議会議長会によると16年の首長の平均給料(月額)は約72万円ですが、議員報酬は約21万円です。他に収入がないとやっていけません。議員活動のために休職が認められる企業はわずかです。任期4年のために勤めを辞める人は、まずいません。

 地方では「議員は名士がやるもの」という意識が強く、女性や若い議員は、自然にはなかなか増えません。女性が政治に関わることへの批判も根強く残っています。

 私は1999年、徳島県の旧川島町長に27歳で当選しました。若輩で町外出身であったこともあり、ことごとく議会と対立しました。結果として私も議員さんもよく勉強し、議論を戦わせました。

 しかし議員さんも自らの選挙が近くなると、執行部に頼みごとをしてきます。議会対策に神経をすり減らしていた私は、「次の予算で何とかしましょう」と言うようになりました。こうしたことは密室でよくなされます。

 条例によって議員と執行部のやりとりを記録させ、情報公開すれば不正も防げるでしょう。私は「議会との緊張関係がなくなるのはまずい」と思い、合併を機に2期目の途中で町長を辞めました。

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 そもそも多くの自治体では議場が庁舎の奥まったところにあって、住民から遠い存在です。庁舎1階かショッピングモールで議会を開いてみたらどうでしょう。

 2000年に地方分権一括法が施行されて以降、地方への権限の移譲が進んでいます。国の指示や制度に従っていればいいのではなく、地域の実情にあった独自の施策が求められています。人口減少、財政の悪化にどう対処していくのか。議会は執行部と知恵を絞り、自治体の生き残り策を考えなければなりません。

 そのためには政務活動費も必要です。議会事務局の職員は少なく、議員のお世話で手いっぱいで、条例や政策立案のための「知恵袋」にはなっていません。こうした点も改善が必要です。

 高知県大川村は、議会に代わって全有権者で構成する「町村総会」を検討しましたが、中断しています。実際に高齢者を含めた有権者を集めるのは困難です。他の先進的議会の改革の取り組みも参考にし、間接民主主義である議会制度が本来の機能を発揮するよう期待しています。(聞き手・桜井泉)

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 なかむらけん 1971年生まれ。JR四国社員を経て徳島県の旧川島町(現吉野川市)町長を務めた。熊本市政策参与。

 ■《解く》男女は半々、制度作り保証を 戸田靖子さん(大阪府島本町議)

 議会の監査、政策立案機能を高めていくには、議員や議会の体質を改めていく必要があります。議会の情報公開や見える化を進めることなどを通じて、女性や若者など、これまで少なかったタイプの議員を増やすことが解決策のひとつです。

 その意味で、フランスで2000年にスタートした議会を男女半数にする制度「パリテ」に注目しています。すでに日本の国会では、候補者の男女均等を政党に促す「政治分野における男女共同参画推進法案」の議論が始まりました。女性や若者を増やすために、この動きを先取りして地方議会で始めてみてはどうでしょう。

 大阪のベッドタウン島本町の町議会議員として3期目を務めています。定数14で女性は6人。13年の町議選では当選者の半数が女性でした。女性議員の割合は01年に40%を超えていました。昭和初期には紡績工場で働く女性が多く住み、女性の人口が多かったことが影響しているのかもしれません。

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 女性議員が多くても女性だけで政策を相談することはまれです。基本的に会派で活動するからです。仮に権力志向の女性が増えたならば議会は変わらないかもしれません。それでも、島本町ではさまざまな変化が起こっています。

 まず情報公開が進みます。町政や議会の課題を記した活動報告などをまめに出す女性議員が少なくないからです。政党に属さない「市民派」は、情報を共有し、意見を聞きながら市民と考えていくスタイルが大切なのです。同時に議会の公開も進みます。常任委員会だけでなく、議会運営委員会や議員全員協議会も基本的に市民に公開しています。

 議会の「見える化」が進むと、住民の議会に対する関心が高まります。議員の学習会に参加したり、議会を傍聴したりする人も増えました。子育てや介護を担う女性が生活が苦しいと訴える場面もでてきます。その人たちに「あなたはどう思う」「私はどうしたらいい?」と問いかける。その対話から、住民の政治参加が始まります。

 ブログや活動報告を見て「この人なら」と相談を持ちかける窓口が増えることも大事です。こうして女性が町の課題に関わっていくと、「私もやってみよう」と議員を志す人が現れます。情報公開、政治参加、候補者づくり。島本町はこの循環によって女性議員を増やしてきました。

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 女性を半数にするのと同時に、若者の政治参加を促すことも必要です。これからの時代、多くの自治体は利益の分配ではなく、痛みの分かち合いになります。それぞれの地域に即した政策が求められます。その計画を綿密に仕上げる能力を身につけた若い人材が議会にも必要になります。議会の提案能力が高まれば、二元代表制が充実していくでしょう。

 ただし、島本町の議員報酬は500万円台。一家の生計を担う子育て世代にはためらう人がいるかもしれません。議論して住民の納得を得た上で報酬を上げることができれば画期的だと思います。

 50歳以下に限って議員報酬を月額18万円から30万円に値上げした長崎県小値賀町(おぢかちょう)の取り組みが参考になります。五島列島北部の島々の町。議員の8割が60歳以上となり、若手のなり手を探す中で、町職員並みの給料を確保しなければと15年の選挙前に条例で決めたそうです。この時は残念ながら50歳以下で立候補した人はいませんでしたが、ひとつの試みだったと思います。

 地方議会に、男女の定数や報酬を柔軟に考える時代が訪れているのではないでしょうか。(聞き手・磯貝秀俊)

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 とだやすこ 1961年生まれ。地元女性議員の活動に触れて町政に関心を持ち、2009年、後継者として大阪府島本町議に。
    −−「ニッポンの宿題 なり手不足の地方議会 中村健さん、戸田靖子さん」、『朝日新聞』2017年12月13日(水)付。

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(ニッポンの宿題)なり手不足の地方議会 中村健さん、戸田靖子さん:朝日新聞デジタル