【覚え書】抵抗論 ジジェク「強大な世界秩序としてのユートピア」

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ヨーロッパ的価値とは何か
レイコ(以下R) 今回のインタビューは二つのエッセイと併せて一冊とします。まずは国際情勢についていくつかお訊きしたいことがあるのですが、アメリカや中国とは一線を画す、対立軸としてのヨーロッパについて書かれていますね。
ジジェク(以下Z) ええ。ただ、私は悲観的です。ヨーロッパが何かを積極的に象徴しているとは言い切れません。一つには、純粋に否定的な形で「ノー」と言えるスタンスを持つことが大切な場合があります。その「ノー」が指している事柄を正確に理解していなくとも、抵抗する拠点が必要なのです。同じ理由から、私は欧州憲法に反対していました。フランスが……。
R 「ノン」を表明しました。
Z 私はそれを支持したのです。友人たちには非難されました。「気でも狂ったのか? 彼らは人種差別的な移民排斥主義者だ」と。私は関係ないと答えました。「ノー」というメッセージをもって初めて、我々はこの「ノー」が何を意味するのかを争うことができる。つまり、ヨーロッパは現状を受け入れておらず、抵抗したいというわけです。
R 議論の余地が生まれるということでしょうか。
Z もちろん、大いなる妥協に落ち着くほかないのですが。私は、アメリカのネオリベラリズムと中国との間で選択を強いられるような世の中になど生きたくはありません。日本も抵抗の術を模索してきました。保守派にしたってそうです。ユキオ・ミシマは右翼として片づけられていますが、少しシンパシーさえ感じます。クレイジーだったとしても、抵抗は重要なのです。
R インパクトを残していることは確かですね。
Z それだけでも異議があるのです。これから起きることは誰にもわかりませんが、一定の空間が必要です。中国について私が非常に残念に思うのは、最後の共産主義の大国でありながら、労働者階級を支配することが共産党の主な役目である点です。
R そこで人権が守られているかどうかが問題ですね。
Z 共産主義国家が、資本主義の追求に最も適しているというわけです。中国について興味深いのは、愛国主義的に機能する範囲内における、宗教の再評価です。
R 特に儒教
Z 儒教団体の会長を務めていた勝g小平の下ですでに始まっていたとどこかで読みました。社会主義的な安定要素としての宗教が再発見されたということですね。それはともかく、これがヨーロッパについて言えることの一つです。
    −−スラヴォイ・ジジェク(訳・インタビュー、岡崎玲子)『人権と国家 −−世界の本質をめぐる考察』集英社新書、2006年、7−9頁。

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