【覚え書】「異論反論 『消費=労働』の脱・経済社会 寄稿 岡田斗司夫」、『毎日新聞』2011年1月5日(水)付。




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異論反論 寄稿 岡田斗司夫
今年も続く不況の構造をどう見る?
「消費=労働」の脱・経済社会

 大学で教えていると、18〜20歳ぐらいの生活感覚の差に驚く。試しに子どもや部下、生徒に聞いてみよう。彼らはびっくりするほど、お金を使っていない。
 なぜだろう?
 「1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体」(坂口孝則著)に「逆転経済」という言葉がある。この10年、商品の価格が不自然なほど安くなっている。なぜ、それほど下げることができるのか。簡単だ。メーカーがコスト=人件費削減という“経営努力”をするから「安くていいモノ」が作れるのだ。

低い報酬が支える信じられない安さ
 「本来は40万円支払うべき月給を20万円しか支払わない」「日本の工場を閉鎖し、海外に発注する」という“国内不況の大幅増産”で、今の激安ブームは維持されている。
 妻が「うわ〜! 通販でこんなに安い!」と喜ぶ価格で売るためには、息子や娘の就職が決まらず、夫のボーナスが出ず、失業したりするのである。不自然に安いものは、巡り巡って私たちの首を絞めるのだ。
 でも政府はエコカー減税やエコポイント補助で、消費を増やそうとしている。結果、消費者は、より不自然に安くなったものを買い、「得した」と思う。すると、本来は妥当な価格で売れていたものすら売れなくなってしまう。
 そこまで無理して値を下げても、もはや私たちにとって「欲しいモノ」は存在しない。正当な報酬がもらえずに働いて、ようやっと手にしたカネで買いたい商品なんて、どこにも無い。
 だから売り手は「過剰な値引き」「過剰な宣伝」「ささいな違いを大げさにアピール」して売ろうとする。
 買い手は「値段」「性能差」「流行」に一生懸命に目を配り、自分が後悔しないモノ、人から笑われないモノを買わなくちゃいけない。
 お金があるから、何か買わなきゃいけない。買うためには、けっこう手間も頭も気に使う。時間もかかる。
 これはもう“労働”だ。
 そう、「逆転経済」下ではすでに消費=労働なのだ。
 会社で労働し、もらったお金で「買い物」という労働をする。
 ではお金に余裕のある人たちはなにをしているか?
 ボランティアや自己投資だ。つまり「お金を払って働いている」。
 なんだかアベコベだ。
 お金がもらえるような労働は、コストを下げるため賃金も安く働きがいもない。せっかく稼いだお金を使うことすら、もはや“労働”。「嫌な労働の2度払い」だ。
 逆に、お金を払って働き、買い物をしない人は「嫌な労働」から二重に解き放たれている。
 若者たちが「働きたくない」「専業主婦になりたい」という裏には、こういう“脱・経済社会”という巨大な流れが加速しているのだ。


おかだ・としお 評論家。1958年生まれ。オタク文化現代社会評論で活躍。twitterはToshioOkada。公式サイト(http://otaking-ex.jp/)で、「貨幣経済から評価経済へのシフト」を問いかけている。
    −−「異論反論 『消費=労働』の脱・経済社会 寄稿 岡田斗司夫」、『毎日新聞』2011年1月5日(水)付。

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経済学・経営学の専門でもありませんが、アダム・スミス(Adam Smith,1723−1790)ぐらいは読んだことはあるという中途半端でアテにならない認識ですけど、岡田斗司夫(1958−)氏の指摘は、正鵠を得ているのではないだろうか……。

一読して暫しそのような感慨に。

つまるところ、価値に価値が与えられなくなってきているのが21世紀の特徴であり、これがあたらしい経済社会の実像かもしれません。

「安い、安い」というのは確かに、買い手にとっては「儲けた気分」を演出するわけですが、それはどこまでいっても「気分」でしかないし、自転車操業的な負の拡大再生産の一コマにすぎませんし、それが加速度的に「演出」されている……そんなところでしょう。

安くていいものなんザ、ありゃしない。

このことをもう一度、自覚する必要はあるかもしれませんネ。

さて……。
仕事へ行く前に、年明け早々ですが、松屋で「牛めし」のお世話になったのですが、この「並盛り」が一杯320円。

たしかに安いし、手早く済ませることができますけど……、ホント、これで320円でいいのかッ……などと思いつつ、しかし、新年早々松屋で世話になるのもいかがなものかッ……と思いつつ、仕事をしてきたわけですが、

まあ、「牛めし」に320円しか払えないような雇用・賃金体系が蔓延しつつあることは確かですよ。

いくらが適正な価値かは知るよしもありませんが、「それで妥当」というカネが払えないわけですから……。

はぁ。

どうなることやらw




⇒ 画像付版 【覚え書】「異論反論 『消費=労働』の脱・経済社会 寄稿 岡田斗司夫」、『毎日新聞』2011年1月5日(水)付。: Essais d'herméneutique



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