旨いもの・酒巡礼記:東京都・国分寺市編「もつやき処 い志井」




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 我々は右のごとき学の事実に代えて、日常的実践的なる経験の事実を捕らえようとする。かかる経験は、単に観照的なる対象の認識ではなくして、実践的行為的なる連関そのものの内に与えられている。だからそこでは対象は常に人間存在の表現である。たとえば我々は日常的に物を買うことにおいてすでに商品を経験している。が、この商品は単なる対象物でもなければまた経済学的観念でもない。それは衣食住としての人間存在それぞれの契機を表現せるものであって、食料品、飲料、衣服、家具等々として取り扱われ、それぞれの商品あるいは部門において商われる。さらに細かく言えば食料品は家庭の日常必需品、料理屋の消費品、あるいは贈り物、祝い物等々として性格づけられている。同様に衣服も礼服、訪問着、ふだん着、制服、子供服、赤ん坊の着物等々として商われる。家具もまたあらゆる生活の仕方を表現している。すなわち商品にして人間存在を表現せざるものはない。そうして我々はこの表現に即して商品と交渉し、表現なきものを商品としては扱わない。しからば我々は商品の経験においてすでに人間存在の表現を理解しているのである。かかる経験を通路としてこそ我々は人間存在に達し得るであろう。
    −−和辻哲郎『人間の学としての倫理学岩波文庫、2007年、217−218頁。

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月曜日に最終講義を終えてから、さて、少し「自分にご褒美をだすか」ということで、「いつものところに逗留するのもナニだし」と思いつつ……、

「そういえば、国分寺に、『い志井』があったような……」

……ことを思い出してぶらりと訪れたのが、「もつやき処 い志井 国分寺店」。

哲学・倫理学を講じながら「また、酒かいな!」って言われそうですが、哲学にせよ倫理学にせよすべて「身近なものごとに注目する」ことから、その学派始まるわけですから、「モノ」を「所詮、モノに過ぎない」として扱うのではなく、「人間存在を表現」するものとして向かい合う「矜持」というものが必要なわけです(キリッ

日本を代表する倫理学者・和辻哲郎(1889−1960)曰く「すなわち商品にして人間存在を表現せざるものはない。そうして我々はこの表現に即して商品と交渉し、表現なきものを商品としては扱わない。しからば我々は商品の経験においてすでに人間存在の表現を理解しているのである。かかる経験を通路としてこそ我々は人間存在に達し得るであろう」……ということです。

酒を通して「人間存在に達し得る」ことほどすばらしいことは他にはないでしょう。

さてJR国分寺駅で降りて、北口から線路沿いにあるいて5分ぐらいでしょうか。

もともと確か「日本再生酒場」関係の「い志井」グループから誕生したような記憶があり、「日本再生酒場」は博多駅で4月にお世話になりましたので、いわゆる「スタンド式」の「立ち呑み」を想像していたのですが、まずは、その立派な店構えにびっくり。

引き戸をくぐって、なかへ誘われると、さっぱりと清められた老舗の蕎麦やかウナギやのような雰囲気。落ち着いてゆっくり本格の味わいを楽しめるお店のようですね。

カウンターに坐ってから瓶ビールを注文して、何にしようかしらんと思案しつつ、先ずは「牛串」をお願いした次第。

汗をぬぐい、ビールで涼をとりながら、しばらく待っていると運ばれてきましたが……。

いやはや……。
「串」とは銘打たれておりますが、芥子をまぶして口に運ぶと、ジューシーな肉汁と相まって、もはやこれは、上等なステーキのような塩梅。

塩梅かげんで、梅きゅうりでさっぱりしてから、ハラミとハツを塩でお願いしましたが、こちらも常識を覆すような、立派さといいますか、チェーン店などでやるものよりも数倍大きな塊にもはや脱帽です。

となりで、これまた一人でやっているおねいさんが、「八海山」(冷や)をお願いしてので、つられてこちらも「はっかいさーーん」。

ほどよく冷えた日本酒の旨みが、串によって際だつ次第です。

長居したいところですが、そのあとも少し所用がありましたので、最後は、たたき(軟骨)をお願いして、ハイボールで締め。

確かにがやがやした「日本再生酒場」には喧騒のにぎわいがなんともいいのですが、落ち着いて・ゆっくり……といっても決して長っ尻でないレヴェルで……ひとりで、味わうというのも乙なものです。

ビールは麒麟ラガーのみ(生ビールも)で少々高い値段設定(瓶で600円)かなあと思いますが、日本酒、焼酎は平均レベル。串は、100数十円からですから、3000円もあれば、ひっそりと羽を伸ばすことのできる名店ですね。

あ……。
そういえば名物の「もつやき(串)」を頼んでおりませんでしたね。またよらせて頂こうかと思います。



■ もつやき処 い志井 国分寺
住所 国分寺市本町4-1-7
電話番号 042(323)4387



⇒ ココログ版 旨いもの・酒巡礼記:東京都・国分寺市編「もつやき処 い志井」: Essais d'herméneutique










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