覚え書:「くらしナビ:「怒らず生きる」極意」、『毎日新聞』2011年12月6日(火)付。

        • -

怒り:「怒らず生きる」極意

自分の怒りを採点
記録/怒ったら行動、思考を止める
親子の力関係、変えてみる

 イライラしてすぐカッとなる。そんな自分に気づいたら−−。長引く不況で世の中から余裕が失われたせいか、街角でも声を荒らげている会社員や高齢者を見かける。怒りをテーマにした本が続々出版されており、心のもち方を説くセミナーも盛況だ。「むやみに怒らない」ために、どうすればいいのか。【中村美奈子】

 11月中旬の午後7時過ぎ。仕事帰りのサラリーマンらが都心の会議室で黙ってメモを取る。「アンガーマネジメント体験クラス」に参加した約20人で、30〜40代が中心だ。
 「夫や子どもなど、身近な人には怒りを強く感じます。自分の力で変えられると思っているから。でも、人を変えるのは、天気を変えるのと同じくらい難しい」。講師の安藤俊介さんの声が響く。
 「アンガーマネジメント」は、怒りと上手に付き合うための心理教育で、70年代に米国で始まった。怒りをなくすのが目的ではなく、怒りを一つ一つふるいにかけ、注ぐエネルギーの配分を考える。
 安藤さんは初歩的なテクニックを二つ紹介した。一つは「スケールテクニック」。10点満点で自分の怒りにすべて点数をつける。10点は人を殺す寸前の人生最高の怒り。0点は全く怒っていない状態で、何点にするかは個人の判断でよい。安藤さんによると、怒りの感情は非常に幅が広く、普段感じる怒りの大半は大して強い怒りではないという。
 二つ目は「アンガーログ」。頭にきたことがあったら、その場で日時、場所、怒りに至った出来事、自分の感情、怒りの点数を記録する。分析はしない。続けると自分のパターンが浮かび上がり、客観視できるという。
 参加した首都圏のハローワーク職員の男性(37)は日ごろ、窓口で求職者から怒りをぶつけられているという。「求人票に年齢不問と書いてあるのに、45歳以上はだめと言われたじゃないか」などと、机をたたいて憤る求職者もいる。男性職員は「相手の怒りも分からないではないが、自分もストレスがたまり、怒りっぽくなってきた」。
 アンガーログを10日間試したところ、自分を客観視できるように感じてきたという。怒る場所は電車内と職場の2カ所。1日2〜3回で、平均3・5点。急いでいたり焦っていたりする時に邪魔されると、腹が立つことも分かった。窓口で求職者が憤っている時も、「この人の怒りは何点かな」と考え、「生活がかかっているから怒るのも仕方ない」と思えてきた。
 講師の安藤さんは7年前から実践し、「他人への許容度が上がった」という。今年5月、「日本アンガーマネジメント協会」を設立し、講習会を開く。「今は万事に余裕を持って生きている。多くの人が学べば、蔓延(まんえん)する怒りの連鎖を断ち切れる」と語る。
      *
 仏教思想で怒りを鎮める方法もあるという。91年から日本で活動するスリランカ人僧侶、アルボムッレ・スマナサーラさんは06年に「怒らないこと」、昨年「怒らないこと2」(ともにサンガ刊)を出版した。「一切の物事は無常で、無常が怒りの原因。人は怒らずにはいられない」と説く。
 そもそも自我があると思うから怒りが生まれるという。人ごとだと腹が立たないが、「私の」何かが関係したとたん、腹が立つという見方だ。
 初心者の対処法は「怒ったら止まる」。何もせず、何も言わず、思考も心も止める。収まらなければ、ゆっくり呼吸しながら1から5まで心の中で数える。怒りをなくそうとするのも怒りだという。
 スマナサーラさんは「世の中が変わるというのは自分が変わること。世直しは妄想です」。

      *
 精神科医水島広子さん(元衆院議員)は治療現場の経験から、怒りをどう扱うかが人の幸せを左右する、と見る。5月に出版した「『怒り』がスーッと消える本」(大和出版刊)では、相手にどんな役割を期待しているかを考えるなど、怒りの原因の取り除き方を紹介した=別稿参照。
 2児の母親でもある水島さんは、親子関係でも「ガミガミ怒り続けるのは百害あって一利なし」という。幼児が片付けをしないなど、日常のささいなことで親はイライラしがち。そんな時は「親子の力関係を逆転させ、子どもに助けてもらう」のも得策だ。
 「お母さん、疲れちゃった。助けて」と言ってお手伝いをさせるなど、人を助けるのが大好きな幼児の特性を生かす。怒る代わりに、子どもの体をくすぐるのもいいという。「叱るのをやめるのも一つの手。ガミガミ怒ってしまったら、子どもを抱きしめて『ごめんね。あなたのせいじゃないよ』と必ず伝えることが大事です」と話した。

      *
ちょっとしたことで怒りがわく人へ
▽自分で作り出した「ストーリー」が現実をゆがめていることに気づこう
▽相手には自分の知らない事情がある、と考えよう
▽現実をありのままに受け止め、評価を下さないクセをつけよう
▽正しさにこだわるのは、やめよう
▽余計なことは考えないで、「相手が今、話していること」に集中しよう
 =水島広子さん著「『怒り』がスーッと消える本」より抜粋
    −−「くらしナビ:「怒らず生きる」極意」、『毎日新聞』2011年12月6日(火)付。

        • -


http://mainichi.jp/life/health/news/20111206ddm013100018000c.html



0210


Ik3_resize0208