覚え書:「異論反論 城戸さん! 女性の貧困が深刻化しています」、『毎日新聞』2012年1月18日(水)付。


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異論反論 城戸さん! 女性の貧困が深刻化しています
SOSに耳を傾けよう
寄稿=城戸久枝

 かつて一億総中流といわれていた日本だが、最近は格差や貧困という文字があちこちで目につくようになった。
 女性の貧困は深刻だ。国立社会保障・人口問題研究所の分析によると、勤労世代の単身女性の3人に1人が貧困なのだそうだ。
 20歳未満の子どもをもつ母子家庭の相対的貧困率は、07年で55%、10年でも48%と、減少傾向だが、依然高い水準にあるという(国立社会保障・人口問題研究所 阿部彩「相対的貧困率の推移 2007年から2010年」参照)。
 まだ働けるうちはいい。しかし高齢になるにつれ、貧困に対する不安は一層大きくなるだろう。65歳以上の単身女性の相対的貧困率は47%と高い(同)。
 女性たちはどうすれば貧困から抜け出せるのか。
 女性や高齢者の雇用の拡大、非正規雇用社員への保障改善、保育施設の拡充や子育て環境の整備など、国がすべきことはたくさんある。行き届いた対策をとるためには、より多くの当事者たちの声を集めることが必要だ。
しかし、女性たちの声はあまりにも小さい。


耐え忍ぶこと美学?
結局何も変わらない
 ある友人は、夫の家庭内暴力(DV)が原因で離婚した。当初は体調がすぐれず、生活保護を受給していたが、その後就職し、ぎりぎりの生活を送りながらも、無事子ども2人を育て上げた。ところが子育てに区切りがついた後、体調を崩し、会社を退職、再び生活保護を受ける生活に戻ってしまった。それでも彼女は「仕方がない。自分で頑張るしかない」と、自立にむけて懸命に再就職先を探している。
 貧困に陥る女性のなかには、彼女のように、問題を一人で抱え込んでしまっている人もいるのではないか。だから一番声を上げるべき人の声がなかなか国や世間に届かない。いや、声を上げようにも、日々の生活で精いっぱいで、
その余裕すらないのだ。おそらく、数値に表れない、埋れた貧困に苦しむ女性たちはもっといるのではないかと思う。
 苦しいとき、耐え忍ぶことは、日本人の美徳とされてきた。だが、ただ、耐えているだけでは、結局何も変わらない。もっと自身の苦境を訴えるべきだが、彼女たちが、声を上げる機会は乏しい。苦しいときこそ、苦しいと声を上げていいのだと、社会がもっと寛容になるべきだと思う。「甘え」だとか、「そんな余裕はない」という声も出るかもしれない。しかし、日本社会全体が停滞した状況から抜け出すためには、まず、「苦しい」という声に、一人一人が耳を傾ける必要があるのではないか。
 簡単に経済成長が望めない今を、私たちは生きなければならない。一人がでも多くが貧困から抜け出すことが、日本社会全体の明るい未来につながると信じている。

きど・ひさえ ノンフィクションライター。1976年愛媛県生まれ。子育てと仕事の両立は難しいが、取材を続けてきた引き揚げ女性の話を早く出版できるよう、取材・執筆を進めている。
    −−「異論反論 城戸さん! 女性の貧困が深刻化しています」、『毎日新聞』2012年1月18日(水)付。

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