覚え書:「経済観測 中国軍拡の経済学 清華大学米中センター高級研究員 酒井吉廣」、『毎日新聞』2012年4月4日(水)付。





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経済観測
中国軍拡の経済学
清華大学米中センター高級研究員 酒井吉廣

 中国が軍備拡大を続けている。その目的は国家・国民の安全保障の強化だが、周辺諸国にとって中国の軍事力増強は大きな脅威だ。一方、軍拡は中国経済を下支えする効果を発揮しつつある。
 中国の国防費は1000億ドルで国内総生産(GDP)の約2%。米国の約2割、日本の2倍の規模だが、米国と同様に国内に治安維持や退役軍人向けなどの関連費用を含めた広義の防衛関連費はGDPの約5%となる。現在は人件費が多いが、空母などの装備増強への支出も増えてきた。
 中国が米国並みに軍事力や国土安瀬保障網を備えようとするならば、軍需産業への需要は一段と増える。米国の防衛予算は、軍需関連産業を通じて米国内で裾野廣く雇用を増やし、米国の経済成長に寄与してきた。同様に中国の国防予算も中国経済の更なる成長を後押しするに違いない。したがって、今後の中国経済を占うには、軍拡の経済効果をどう試算するかも鍵となる。
 軍需には兵器だけでなく衣料や食品、気動車などの民生品も多く含まれるため、中国の安全保障強化は、日本からの民生品輸出にもプラスだ。
 中国は今、国内製造業の強化を図るべく、あらゆる分野で世界の先端技術を求めている。これを将来の軍需転用まで意識した産業強化への布石と見ることも可能だ。このため我々は、経済構造の米国化が進む中国との関係を考える時、実利優先か安保重視かのジレンマに陥らざるを得ない。しかし日本経済の対中依存度は急速に高まっており、これと平仄の合わない判断は難しい。中国の経済発展を止めることも隣人としてはすべきではない。日本の選択は、中国と平和維持の枠組みを構築し、その中で互恵的経済拡大を追求することだ。
    −−「経済観測 中国軍拡の経済学 清華大学米中センター高級研究員 酒井吉廣」、『毎日新聞』2012年4月4日(水)付。

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