書評:アントニオ・ネグリ(杉村昌昭訳)『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』作品社、2007年。


アントニオ・ネグリ(杉村昌昭訳)『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』作品社、2007年。


思想哲学の分野に限らず、現代の特徴とは、伝統的な概念が、もはやうまく機能しなくなってきているという問題だろう。発想にせよシステムにせよ、それに変わるものごとの構築を迫られている。本書は、ここ10数年、多数の著作が紹介されるようになったネグリが政治哲学について正面から論じた一冊だ。

ネグリは伝統的な思想が力を失った原因を3つ、本書で指摘している。一つは「非物質的な労働」の登場である。これにより、伝統的なマルクス主義の労働概念と人間概念は木っ端みじんに崩壊した。

次は、「主権の生政治的定着」とよばれる現象である。社会の生政治形態は全体化しているのはまぎれもない事実だろう。この現象により社会における主権という概念が決定的な重要性を喪失した。

そして最後は、「グローバリゼーション」である。従来の様々な統治形態は……例えば、君主制によせ貴族制にせよ、そして民主制にせよ……、一者に主権をすべて集中するところにその特徴がある。しかしグローバリゼーションの到来は、その無効を宣告した。

そしてそれに挑戦するポスト近代の政治思想を取り上げ批判する。しかしネグリによれば、どのアプローチも有効に機能していない(第一は「近代の存在論に対する哲学的な反動」、第二は「弱い思想」、そして第三は「無力な契約主義」である)。

さてネグリ自身は概念更新についてどのように考えているのだろうか。冒頭で次のように言及している。

「概念の構築の作業は、常に人類学的なプロセスをたどり、協働的な流れ、未来に開かれた装置となっていく。これが移行期における思考の特徴であり、また逆に、この思考の生成は移行期によって強化されていく」。

そう、ここで登場するのが氏の持論である。従来の植民地化か脱植民地化かというポスト近代の思想を退けながら、「特異性の総体」としてのマルチチュードの登場である。グローバリゼーションのもと、マルチチュードの内部では、主体性(主観的権利)は、単に個人的利益を擁護しようとするのではなく、むしろ協働して機能する。

ネグリは言う。

「問題は否定的なものを排除することではなくて、それと並行して肯定的なものを建設することなのである。なぜなら、この二つの線は、実際は、恒久的に交差するものだからである」。

決定するとは、何かひとつを排他的に選び取るものではないのかもしれない。それが民主主義の「生産」になるという。

さて思い出すのは「対案を出せ」という弾呵。
このワンフレーズがさらなる機能不全を招来することはいうまでもないだろう。 





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さらば、“近代民主主義”
アントニオ・ネグリ
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