覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『ティーパーティ運動の研究』=久保文明ほか編著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

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今週の本棚:伊東光晴・評 『ティーパーティ運動の研究』=久保文明ほか編著
 (NTT出版・2940円)

 ◇アメリカ「草の根保守」の実態に迫る
 共和党予備選挙下、右派を支える草の根地域運動であるティーパーティについてのすぐれた実証的な研究が、この本である。執筆者は編者を含めて十一人、みなアメリカ現代史の専門家である。
 第一章では、世論調査を使ってこの運動に共通しているものが「小さな政府」を求めるものであることを明らかにしている。政府の弱者支援に反対であり、自らの生活は自らの努力の上に築くべきで、政府に依存してはならないという考えである。ロンドン大学ドーア教授によれば、過去に共同体を持ったヨーロッパの人たちが、福祉社会を志向しようとするのと対照的であるという。
 小さな政府の主張は、経済的保守主義市場原理主義、反福祉政策に通じている。
 このティーパーティ運動の発端は、二〇〇九年九月の「サンテリの叫び」だという。住宅差し押さえに窮した人に、オバマ政権が救済措置をとることを知り、こんなことに国の金を投じてよいのかと、怒りをぶつけたサンテリ(ケーブルテレビの金融レポーター)が、“オバマ反対、独立記念日ミシガン湖に集まれ! 私がシカゴ・ティーパーティ運動を組織する”とテレビで言ったことにはじまる、という。
 アメリカ独立戦争の発端にちなんで名づけられたティーパーティは、こうして、指導者はなく、統一した綱領もなく、強い衝動にもとづく異議申し立てとして、二〇〇九年十二月の「納税者ワシントン行進」となっていったのである。
 著者たちは、ティーパーティの影響は、共和党予備選挙までであるとしているが、共和党予備選挙の進行をみると、この予想は正しく、大統領選挙に影響することはなかった。この運動は大きな話題を集めたが、ニューディール以後の新しい行政ニーズ、経済問題、政治問題に対処できないと書かれているが、その通りである。
 注意しなければならないのは、ティーパーティの中には、少数派ながら異端のいくつかの流れがあることだという。その最たるものが「コーク財団」の動きであろう。
 コーク兄弟は、石油精製事業をおこした父から、富と強烈な反共主義を受けつぎ、世界長者番付十八位の所得を手に、右派支援の活動を展開しており、オバママルクス主義に通ずるものがあると批判するなど、極右支援の動きとティーパーティ運動とを、ともに展開しているという。その動きは、現代のマッカーシズムを思わせる。
 他のひとつはロン・ポール下院議員とかれを支持する草の根運動であり、かれらはティーパーティ運動の元祖は自分たちだと自負している。かれらは、個人の自由を最大限に尊重しなければならないとするリバタリアンであるが、同時に、制定時の合衆国憲法に忠実でなければならないとする「憲法保守」である。
 ポールの批判は民主党政権だけでなく、二〇〇八年「不良資産救済プログラム」を認めた共和党主流にも加えられる。この時「自由への行進」に使われた旗や服装が、ティーパーティに使われていく。
 初期憲法に忠実ゆえ、イラク戦争、米軍の海外駐在に反対であり、社会問題ではリベラル派に近い主張をしている。
 共和党の大統領候補は中道のロムニーマサチューセッツ州知事におちついた。大金持で、正に共和党の候補にふさわしい。この本は、ティーパーティについての、わが国でのはじめての本格的研究書であり、その実態を私たちに教えてくれる。
    −−「今週の本棚:伊東光晴・評 『ティーパーティ運動の研究』=久保文明ほか編著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

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