覚え書:「今週の本棚・新刊:『むかし原発 いま炭鉱』=熊谷博子・著」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『むかし原発 いま炭鉱』=熊谷博子・著
毎日新聞 2012年05月20日 東京朝刊

 (中央公論新社・2415円)

 日本最大の炭鉱にして約1年にわたる激しい労働争議で知られた三池炭鉱。著者は労使双方をはじめ、炭鉱事故や第二次大戦中の強制連行の当事者らへの取材を通じ、三池炭鉱の歴史を真正面から記録した映画「三池 終わらない炭鉱(やま)の物語」の監督だ。撮影過程で出合った事実の数々を書き残そうと、東日本大震災後の改稿を経て日本を支えたエネルギー産業の裏面史にまとめ上げた。

 街を2分した労働争議の中心人物に切り込み、炭鉱労働者の日常生活も丹念に拾い上げる。さまざまな立場から炭鉱の営みを描き、貧困問題を背景に成長してきた危険と背中合わせの企業の構造にたどりつく。

 炭鉱労働者の多くが苦しんだじん肺の訴訟資料を震災後に読み返し、著者はがく然とする。原発労働者の置かれた環境とあまりに重なっていたからだ。二つの国策産業は労働者の健康被害防止策の充実より、企業の利益を優先してきた。著者があえてタイトルを逆転させて強調したように、三池炭鉱を掘ることは今の日本を掘ることにつながっている。

 労働とは何か。企業で働くこととは何か。名もない労働者の証言が語りかけてくる。(美)
    −−「今週の本棚・新刊:『むかし原発 いま炭鉱』=熊谷博子・著」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120520ddm015070020000c.html


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