書評:田中伸尚『ルポ 良心と義務 −−「日の丸・君が代」に抗う人びと』岩波新書、2012年。




「この歌は由緒正しい日本の国の学校を卒業したんだという歌だから」歌いなさいと「由緒正しい国」は強制するのだろうか。

田中伸尚『ルポ 良心と義務 −−「日の丸・君が代」に抗う人びと』岩波新書、2012年。

「日の丸・君が代」が国旗・国歌と法制化されて今年で13年。当時の国会審議で政府は「強制はしない」と明言したが、現場はその政府答弁とは裏腹に「強制」「斉唱しない自由」の否定へと大きく舵を切っている。

条例とはいえ大阪の「維新の会」による法制化、そして橋下大阪市長による「職務命令を拒否する公務員は出ていけ!」という話題だろう。本書はその10年余りの経緯と昨今の動向を踏まえ、教育現場を丹念に取材したルポルタージュである。

強制されるのは教師ばかりではない。免職のニュースでついつい大人に視線がむきがちだが、「歌わされる子ども」が存在することも忘れてはならないだろう。

「この歌が歌えないと一人前じゃないんだよ」
「この歌は由緒正しい日本の国の学校を卒業したんだという歌だから、前の六年生を見習って歌いなさい」
「歌いなさい」
「大きな声で」

歌うことを拒否した少年は、「その威圧感は、卒業式の足音が近づいてくるに連れて次第に強まり、○さんは就寝中にうなされるようになった」……


大阪、東京、そして北海道で何が起こっているのか。「良心の自由」を掲げ抗う教師や市民たちの苦悩を生々しく描いており、何かがひとりひとりの「人間」を「圧倒」してく様子とそのスピードには言葉を失ってしまう。







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