覚え書:「異論反論 玄葉外相が適者生存論を展開しました 『種』の政治思想は危険だ 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年6月13日(水)付。


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異論反論 玄葉外相が適者生存論を展開しました 
「種」の政治思想は危険だ
寄稿=佐藤優

 5月28日、玄葉光一郎外相が母校の上智大学で講演を行った。外務省のホームページによると、学生からの「若い人たちにメッセージがございましたら、一言お願いします」という要請に応えて、玄葉氏はこう話した。
 「私が今、大事だなと思っているのは、一つは脱ポピュリズム。ご機嫌取りをあまりしない政治家が一つ。それともう一つは、ダーウィンの進化論ではありませんが、これはカトリックの考え方とちょっとどうかということもあるかもしれません。どういう種が強い人か。強い種が強い人ではない。どういう種か。時代に適応して変わり続ける種だ。だから、やや改革志向というのが強いのかなと。そして、やはり安定した政権でないと私はいけないと思う。今、求められているのはそういう政権であって、野田(佳彦)政権をそのようにしたいと思っていますし、一般論で言っても、そういった政権というものを今後日本が持ち続けることは非常に大切。そうすればスピード感のある政策というのはできると思うのです」
 ここにダーウィンの進化論のアナロジー(類推)で政治を捉える玄葉氏の思想が端的に現れている。政治の主体は種だ。ここでは、人という種が想定されている。氏の発言を素直に解釈するならば、時代に適応できる強い主我行うポピュリズムを排したエリート主義による政治が求められているということになる。6日、外務省で行われた会見で、「週刊金曜日」の伊田浩之記者が「『種』というのは、へたをすると優生思想、ナチズムの思想へつながったり、日本でも戦前、断種法というのがあったが、そういった極めて危険な受け取られ方をする可能性がありますので、ここで大臣の真意をしっかりお聞かせいただければと思います」とただした。これに対して、玄葉氏は「ダーウィンの話だということで、カトリックとどうかという話をしたのであり、また、ダーウィンがまさに、いわゆる生き残っていく種というのは、強い種とかいうことではなくて、時代に対応していく、変わり続ける、そういう種であるということを言ったと。つまり、決してナチスに行き着くような話では全くなくて、これからのあるべき政権を考えたときに一定の改革志向というものを、やはり常に持ち続ける必要があるのだろう」と答えた。

人種主義と親和的な言説
重大性を理解していない
 玄葉氏は、レトリック(修辞)で切り抜けようとしているが、時代に対応して生き残ることができた種が結果として強者になる。氏の言説は種を主体とする適者生存論で、ナチズムを含む人種主義と親和的だ。19世紀ロシアの思想家ピーサレフは「中途半端な教養は、無教養よりたちが悪い」と述べた。玄葉氏は政治思想史を真面目に勉強したことがあるのだろうか。日本の外相が「種の政治思想」を公言することが、国際的にどういう意味をもつのか、氏はわかっているのだろうか。

さとう・まさる 1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大大学院神学研究科修士課程修了。「奈良県吉野町金峯山寺本堂(蔵王堂)を訪れ、特別公開された蔵王権現立像を拝観。蒼(あお)い顔の権現様に圧倒されました」

    −−「異論反論 玄葉外相が適者生存論を展開しました 『種』の政治思想は危険だ 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年6月13日(水)付。

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