覚え書:「【書評】 昭和戦前期の政党政治 筒井清忠 著」、『東京新聞』2012年11月18日(日)付。
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◆二大政党制の失敗に学ぶ
[評者]井上 寿一 学習院大教授、日本政治外交史。著書『戦前昭和の国家構想』など。
長く続いた保守一党優位体制は三年前に終わった。政権交代によって日本の政治はよくなるのではないか。期待が高まった。しかし今、失望と落胆が広がる。つぎは自民党政権に戻る可能性が高いという。
何のための政権交代だったのか。自民党化が著しい民主党と古い体質が残存する自民党との二大政党制に意味はあるのか。これからの日本の政党政治はどうなるのか。考える手がかりを歴史書に求めると、本書に行き着く。
本書は今日的な問題関心と斬新な分析手法によって、戦前昭和の政党内閣の歴史を再現する。一九二四年から三二年までの約八年間の政党内閣の時代(そのうちの政友会と民政党の二大政党制は約五年間)は今のことかと錯覚するほど似ている。
類似点の第一は劇場型政治、第二はメディア政治、第三は政党の危機意識の欠如である。劇場型政治の始まりは小泉純一郎内閣ではなく、一九二六年の第一次若槻礼次郎内閣だった。三年前の政権交代はメディアが促した。同様に政友会と民政党の二大政党制の展開は、メディアの役割が大きかった。一九三一年の満州事変の勃発にもかかわらず、政争に明け暮れる二大政党は今の二大政党と二重写しである。
ここまで似ていると、歴史は繰り返すのかと思わざるを得なくなる。著者は指摘する。「“内輪の政争に明け暮れ、実行力・決断力なく没落していく既成政党と一挙的問題解決を呼号しもてはやされる『維新』勢力”という図式が作られやすいという意味で、歴史は繰り返す」
戦前昭和の失敗の歴史からどのような教訓を学ぶことができるのか。大衆迎合政治に陥ることなく、二大政党は政策を競う。国民は自分の頭で考えて判断する。危機意識を持つべきは政治家も国民も同じだ。
あきらめるのは早すぎる。複数政党制の時代は始まったばかりである。
つつい・きよただ 1948年生まれ。帝京大教授、日本近現代史。著書に『帝都復興の時代』など。
(ちくま新書 ・ 945円)
<もう1冊>
川田稔著『満州事変と政党政治』(講談社選書メチエ)。戦前の政党政治が軍部とどのように闘い、なぜ敗れたかを綿密に検証。
−−「【書評】 昭和戦前期の政党政治 筒井清忠 著」、『東京新聞』2012年11月18日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2012111802000163.html