書評:今野真二『百年前の日本語  −−書きことばが揺れた時代』岩波新書、2012年。



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 言語は時間の経過とともに、何らかの変化をする。なぜそのような変化をしたのかが比較的わかりやすい。説明しやすい場合もある。変化が最初から言語に内包されているとしかいえない場合もある。そうであれば、言語はもともと「揺れ」るということをそれほどきらってはいないともいえる。時間の経過とともに、「揺れ」の幅が小さくなり、ある種の収斂をみせることももちろんある。しかし、だからといって、「揺れ」がまったくなくなるわけではない。
    −−今野真二『百年前の日本語  −−書きことばが揺れた時代』岩波新書、2012年、70頁。

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明治期の日本語を、漱石の原稿など一次史料をもとに分析し、現代の日本語になりゆく変遷を辿る一冊。明治期の日本語は、表記の仕方が複数あったり、旧字新字の混在を許容している。ことばに「揺れ」が存在する。それが大きな特徴である。

現代の日本語はどうだろうか−−。

できるだけ「揺れ」を排除する方向へ収斂してきたことが分かる。使用する文字、表記とその規則。私たちの使う使う日本語表記の運用が統一された現状、そして明朝体の手本通りに書くことは、歴史的には特殊な状況といってよい。

明治期の出版物は「書くように印刷」されていたが、運用の統一化は「印刷するように書く」という転換となる。私たちは印刷された手本通りに文字を書く。しかしこれは実際には逆であった。日常生活の自明は、たった百年程度の「伝統」しかない。認識を新たにさせる一冊である。




 





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