覚え書:「今週の本棚:近代を創ったスコットランド人=アーサー・ハーマン著」、『毎日新聞』2012年12月2日(日)付。




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今週の本棚:近代を創ったスコットランド人=アーサー・ハーマン著
昭和堂・5040円)

 近代における人間や社会や世界に対する新しい認識を切り開いた18世紀の啓蒙思想。フランスほど華やかではないが、スコットランドでは活発で独創的な思想が花開き、近代文明に大きな影響を与えたことを明らかにする。本書は米国とカナダでベストセラーとなった。
 馴染みのある名前の何とスコットランド生まれが多いことか。『国富論』のアダム・スミスをはじめ、デイヴィッド・ヒュームジョン・ステュアート・ミル、トマス・リード……。蒸気機関を発明したジェイムズ・ワットもそうだ。英国北方の貧しく孤立した地域がなぜ知的拠点になり得たか。カルヴァン派プロテスタント信仰の下で、自由で自主的な個人の観念が育ったこと、ロンドンから遠く離れ、国家機関や貴族的サロンに支配されなかったことなどを著者は挙げる。ちなみに今に続く『ブリタニカ百科事典』第1巻は1768年に中心都市エディンバラで創刊された。
 この啓蒙思想のグローバル展開の契機となったのが人々の米国移住。これは英国からの独立運動の思想的基盤を準備することにもなる。壮大なスコットランド人の精神史である。=篠原久監訳・守田道夫訳(恵)
    −−「今週の本棚:近代を創ったスコットランド人=アーサー・ハーマン著」、『毎日新聞』2012年12月2日(日)付。

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