覚え書:「今週の本棚:白石詩集」、『毎日新聞』2013年01月06日(日)付。




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今週の本棚:白石詩集
青柳優子訳
岩波書店・2205円)

 一九一二年、平安北道定州(現・北朝鮮)に生まれ、日本の青山学院を卒業、戦前の朝鮮詩界で活躍した詩人、白石の主要作を収める。白石の詩集刊行は日本では初めて。
 詩集『鹿』(一九三六)に始まる白石の詩は、方言と古語を生かしたもの。独特の並列叙法で、郷土詩を超える新境地をひらいた。「枯れ葉も 髪の毛も ぼろ布も 棒切れも 瓦も 鶏の羽も 犬の毛も 燃える焚火」(「焚火」)は、視線の流れが美しい。市井の「悲しい歴史」にふれても、不思議なあたたかみがある。医員は、「無言で腕をとり 脈をとる/その手は温かく 柔らかく/故郷も 父も 父の友だちも みんないた」(「故郷」)などの点景も、ことばの線がきらめく。訳も流麗。
 一九四五年の解放とともに、白石は、ソウルから郷里定州に帰る。そのあと一時、行方不明に。一九九五年ごろ亡くなったということだ。生前一冊の詩集しか編まれていないが、いまも韓国でもっとも高い評価をうける詩人のひとりである。一九二八年朝鮮にわたった、鳥取県生まれの詩人、則武三雄(一九〇九−一九九〇)が、「葱」と題する詩で、戦前の白石の即席を伝えている。(門)
    −−「今週の本棚:白石詩集」、『毎日新聞』2013年01月06日(日)付。

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